第2話スカウト⑧

時東さんはもっともらしく言っているけど、断定的に言えば何だってそれっぽく聞こえるからなあ。


「そういうものなの?」


「ええ、そういうもの。長年生きていると分かってくるのよ。人生の機微ってやつがね」


へえ、そうなのか、僕も時東さんと同じくらい長年生きてはいるが、全く分からなかったよ。時東さんは格別であるなあ。所詮青二才の分際で人生とは何ぞやを語れる度量は素晴らしい。その発言をテープレコーダーに記録して、一回り経った時に当人へ聴かせたいくらいだよ。


「じゃあ両親は誘えないのか~、残念!」


僕の隣で相原さんは悔しそうな表情。


「本当に誘うつもりだったの?」


ならば相原さんに対する見方を、今後目まぐるしく改変させていかねばならない。


「冗談に決まってるよ。だって私の両親はとっくの昔に死んじゃったからね♪」


明るく振る舞ってはいるが、僕は今、大変な地雷を踏んでしまったのかもしれない。けれどまだ大丈夫、地雷を踏んだだけでは爆発しない。


「……」


踏んでも踏んだ足を離さなければ良い。でもそれっていつまで?


この日から僕の長くて辛い沈黙生活が始まった……


「フフフ、君は何をそんなにションボリンしているのかしら。安心しなさい、ちはやが言っていた事は紛れもない嘘よ。バリバリで生きているわ。なんならひい共々まで存命しているわよ」


……と覚悟していたら直ぐにそんなおぞましい生活は終わった。僕は無言で相原さんの方を見る。


「てへぺろだね。いや~、あなたのしょんぼりする顔がみたい好奇心が理性に勝っちゃた出来心だよ。ゴメンね」


なんて平謝りなんだろう、この世には言っても良い冗談と悪い冗談があるでしょ、マジで禁忌をおかしたと思っちゃったよ。


「さてと、ちはやと君が仲良くなったところで、本題に入るわよ」


そう事実無根な事を口実に、時東さんは議長さながら仕切り始めた。てか、まだ本題にすら入っていなかったのかよ。


「新設のステップとしては、ノートに記載されている通り行うわ。そこで手始めに部員集めをしたいと考えているのよ。とてつもなくアブノーマルな子がいいわね。ああ、勿論在校生に限るわよ」


「どうやって出来てもいない部活動に勧誘するの?」


「模範質問どうもありがとう。そうね、まずは君と同じ様な中二病青年を見つけて、片っ端から拉致る。そして君の様に念書を書かせて無理矢理部員候補に仕立てる、もしくは弱味を握って無理矢理部員候補に仕立てる。そんなもんかしらね」


どっちにしろ無理矢理なんだな。友達いないっぽいもんね、それしか手段がないのだろう。で犠牲者第一号が僕だったのか、てことは、


「どうやってその中二病を見つけるの?」


「自己紹介をするのよ」


「もしかしてだけど昨日のアレをやるの?」


「あたり前田のクラッカーじゃない、それで君を乙女の部屋へと連れてきたのだから」


読み通り、やっぱり事故紹介を使ってスカウトしようというのか。悲劇は繰り返される。にしても、


「僕を連れてきた?」


「私のあの自己紹介があるでしょう。自分なりに精一杯考えた上でのあれなのだけれど、周りからみてどうだった?それが知りたかったの、ちゃんと痛々しかったかしら?ぶっちゃけ何度も試行錯誤してよく分からなくなっていたのよね」


第三者もとい中二病患者代表としての真摯な意見を求めるか……内容、アクション共に十二分過ぎると思うのだが、


「痛かったけど所詮は擦過傷程度、全体を通してのインパクトが物足りなかったかな。まだまだ踏み込める余地はあったと思うよ」


面白そうだったので、とことん痛くしてやることにした。どうせ実行するのは時東さんだけで、時東さんが致命傷を負ったとしても僕はちっとも痛くないからね。


「どうすればよかったのか教えなさい」


僕ごときに指摘されてか、少し語勢が強めで苛立ちを隠せていない様子。そこからは精神年齢の幼さを感じさせる。つーか、素でも相当に痛いんだけど本人は気付いていないのだろうか。エセお嬢様気取りの口調とかさ……兎も角、若いっていいね、同い年ながらそう思うよ。



暫しディスカッションの末、本決まりした。


アクションと痛さを前作より何倍にも増やした、殺傷能力ギロチンレベルの紹介文が完成してしまった。これを使えば時東さんは更なる高みへ迎えられることだろう。高みへ昇りすぎて社会的に天へ召されないかが心配であるが、周りの反応を介し己の過ちに気付いてくれるのならばこの上ない。こちらが言うよりも自分で分からせた方が早くて為になるからね。けだし、こんな触るものみな傷付ける様な事故紹介文を、いつ、どこで使うんだ?まさか休み時間に一人で転々と廻りながら使うのだろうか。

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