第2話スカウト⑦

『黒歴史部創設までの軌跡』


①気合いで部員を集める


②根性で顧問を見つける


③運で部室を得る


④めでたく黒歴史部の創部に成功する


⑤なんやかんやあって部員が百名を越える


⑥てんやわんやあって強化指定部活に選ばれる


⑦そんなこんなあって黒歴史部が全ての部を吸収。黒歴史部の一強のみとなる


⑧とっても楽しい思い出を作り、私は無事卒業



「これだけ?」


「ええそうよ、Simple is the best。春休みって、春夏秋冬の休みのなかで唯一宿題の出ない休みだからか、やることなくって暇じゃない?なのでその余暇を有効活用して作ってみたのよ。大変だったわ、幾多の苦難や葛藤、そして眠気との戦い、それらを乗り越えて書き上げた紙上、いや、至上の計画を作り上げるのは」


眠いんだったら寝ろよ。って、一頁の四分の一も埋まっていないじゃないか。内容も何もかもが薄っぺら過ぎる。拍子抜けだよ。あと④から⑤にかけての飛躍が凄まじすぎる。なんやかんやありすぎだろ。どうした?先日書かされた念書の内容は、本当にミジンコすらも入れない隙なしの文だったのに。これだと小学生が作文で書く『将来の夢』の方が余程しっかりしているぞ。と、思っていたら横から相原さんが口を出す。


「いつの間にこんな完璧な、アリンコ一匹入れない密な計画を立ててたの!?びっくりしたよ。四季のマルチな才能には毎度驚かされちゃうな!」


そのアリンコとやらは、一体どこぞの巨人国産なんだ。


相原さんは時東さんを茶化しているのだろうか、それとも……やっぱり茶化しているのだろうか?そうとしか思えない。


「そんなに誉めないでよ、私とて浮かれてしまうじゃない」


満更でもなく照れている。こんなおべんちゃらを真に受け取っちゃうとは、時東さんの先行きが不安。よく落ちる洗剤とか大量に買わされそうなタイプだよなあ。っ、もしかすると既に買わされまくってて、カネを絞り尽くされて、だから水しか出せないとか?それだと心配だ、自分の身がね。有り金を失った者のプライドのなさは異常、どんな狡い手を使ってでも『生きるためだからしょうがない』という建前を引っ提げ、騙しにかかってくる。会ったばかりの時東さんに限ってそんなことはあり得ないだろうけどさ。


「まずは部員を集めるの?」


「そうね、私とちぐさ、あと下僕枠で君、言わずもがな二人足りてない。うまく騙して連れてこないといけないわ」


「最低でも五人は必要なのか~、じゃあ私の両親でも誘う?」


「それは出来ないわ、飽くまでこの学校に在学中の生徒限定なの、四十路カップルは不要よ。たとえ出来たとしても、部活動って感じしないじゃない」


「必ずしも部活動としてじゃないと駄目なの?その黒歴史部ってやつは?別に学校が休みの日とかにオフ会を開くとかすれば、部活を作って変に学校に規制されるよりも、余程活動の幅とともに思い出も増えると思うんだけど。時東さんのいう黒歴史も沢山作れると思うけど?」


初めて聞いた時から思っていた、何故に部活動にこだわるのかと。青春したい気持ちは分かるが、その為に無茶をする気持ちは分かりかねる。無茶と無理は違う、無理なことは無茶をしても無理、ただの時間の無駄である。新たに作り出すより在るもので済ますのが普通。青春は短い、だからこそ時東さん達にはよく考えて行動して欲しいよ。


「君は先生みたいなことを言うのね。熱血TVドラマにでも影響されたのかしら」


時東さんの返事は冷静そのもの、というか人情に薄い。反抗期なのかなあ。なんて考えてしまう所は、たしかに先生っぽいのかも。


「僕はただ、学校以外でも出来る事は、リスクを負わず成るべく学校外でやるべきだと提案しただけだよ」


「君は分かっていないようね。こういったのは学校でやるから趣深くって粋なのよ。節約レシピに似てる。味は大概外食料理に劣るけれども、限られた材料で作るから面白い。アレンジのオリジナリティーが面白がられてレシピ本は売れる。鶏頭牛後、狭く限られた場所で行うからこそ痛い行動は思い出として生きるようになるの。第一、私のやろうとしている事なんて学校外やっても『こういった人もいるんだな』程度でスルーされてお仕舞いよ。痛いことですらなくなるわ。周りに痛い人レッテルを貼られてないと痛い人でいる意味が消える、私はまだ消えたくないし消したくないのよ」

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