第2話スカウト⑥
はてもさても、このチョコレートは僕が食べるべきなのだろか、何分にも一粒しかないため躊躇してしまう。そもそも食べていいものなんだろうか?受け皿とか無しに、直でオンザテーブルされてて、一見オブジェ風。拾い食いに区分されるのでは?卑しん坊に見られないかなあ。
「食べてよ、宮國くんの為に残しておいたからさ」
そう言われましても、元より指紋がベッタリ付いてて食う気が起きないんだよなあ。
「あ、うん」
踏み切って僕はミニマム泥団子のようなチョコレート菓子に手を付けようとした矢先、
ガチャ
扉の開く音。そいでヒョイと、不意に手が伸びてきて口に運ばれた。
「へえ、まずまずな味ね」
偉そうに批評している。おもてを上げると、時東さんの姿。よく瞬時にあれを食べ物と判断できたな。ではない、自由すぎでしょう、どんな教育を受けてきたのか心配だよ。
「今日は私の奢りよ」
時東さんは手に持っていたティーセット一式をテーブルに置くと、それぞれティーカップを差し出し、僕らの分を注いでくれた。うん、やっぱり水だ。ケチってるのか、とはいえケチは見栄っ張りなイメージがある。こういう時こそ、これ見よがしに豪勢な菓子やら飲み物やらを出すものだよなあ。落ちぶれた元令嬢感がぱない。このティーカップ、外貌は綺麗なのに中身がお粗末。まるで時東さんみたい。とかとか、出してもらっている側だし絶対に言えない。うん、心頭滅却すれば水もまた玉露、美味でございます。
「四季!宮國くんは兎も角なんで私まで水なの!来客に対して失礼だよ」
失礼なのはあんただ。折角受け入れかけていたのに、思いもよらず流弾に当たってしまった。
「あら、これは一杯八百円もする水なのよ、だからつべこべ言わず飲みなさい。御不浄水だけれど」
よしんば言う通りの高級水であろうとも、生活用水を平気で相手に差し出す神経は感慨深いものだ。最後の告白が凄く気になったが、それを突っ込む暇も与えず、時東さんは座り込んで、
「さて、メンバーも揃ったところで、皆で黒歴史部を創るべき計画を練り上げましょう」
当然の様に突然進行し始めた。昨日と同じく相原さんを隣に、向かい合わせには時東といったポジショニング。違いといえば相原さんが携帯を持っていないくらいかな。
「君、なにか妙案はあるかしら?」
飛んでもないキラーパス!『敵を欺くにはまず味方から』という諺があるが、この場合は事前に段階を踏んでてもらいたいよ。
「そもそも三佐上高校では、どうすれば部活を新設できるの?」
「いきなり質問とは、不調法も甚だしいわね。このままだと先が思いやられるわよ」
僕が至らないのは、九分九厘事前説明をお座なりにした時東さんのせいでしょうに、半ば青春を諦めて、こんな七面倒に無理矢理付き合わされている僕にも少し配慮をしてほしいものだ。
「そうだ!私もよくわからないから教えてよ!」
「ちはやが言うのなら仕方ないわね」
格差社会恐るべし。仕方ない理由を知りたいよ、まあとにかく相原さんは余程信頼されているってことか。話拗らせまくりの時東さんがあっさりと教える運びとなった。
「五人以上部員候補を集めます。顧問の先生をつけます。そうした後に校長へ許可を貰えれば部活新設完了。校則にかかれていた内容を大掴みにまとめるとこんな感じかしらね。分かってくれたかしら?わりかし難易度は低めでしょう?」
「……確かに」
アニメとかでよく拝見するのとさして変わらないんだな。てっきり屋上が解放されているだとかのノリで、創部の条件も架空のものだと思っていたよ。もっと厳しいものだと思っていたよ。
「創部の為にステップも書いてきたわ」
そう言うと、何やら時東さんは自分の学生鞄から一冊の大学ノートを取りだし、僕らの方へ置いた。なになに『黒歴史部 創設までの軌跡』?馬鹿らしいけれども、タイトルスペースに丁寧に収まっているのと、書き手の字が綺麗なのも相成って、やけに現実味を帯びている。もしかしてこのノート、三十枚六十頁一杯に計画とやらがビッシリと記されているというのか。何気に頑張り屋?方向は完全に違えど、評価すべきだよな。
「なに?このチョーださいノートは?」
「私の立てた計画が中に詳しく書いてあるわ。たんと見なさい」
そんな合図と共に僕らはそのノートを開く。
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