第2話スカウト④
「黙りして……核心をえぐっちゃった?それについて謝りはしないけれど、そこまでトラウマならば強制はしないわよ。授業中は、大学で使う程度のなんだか難しそうな参考書を広げて置くだけでも良し、ひたすらに鉛筆を削り続けるのも良し。とにかく奇をてらったものならなんでも良いわ」
結局、授業は受けるなってことかよ。御免だ。こんなのに付き合って学力を落としたくない。僕の頭の出来は水準以下、気を抜けば留年しそうで怖い。授業を聞いていれば、内容が理解出来なくとも黒板に書いてある字を写すくらいは出来る。少しぽっちは学べる。第一大した実力もないくせして余裕ぶり、気取ってやがる奴ほど見てて滑稽なものは無い。そういう人に僕はなりなくない。一度なったけどね。
「もしかして君は、私が理由を盾にして学校の勉強から逃げていると思ってる?違う。私はちゃんと自宅で勉強しているわよ。単にあれあれ、テスト前日まで『俺、全然テスト勉強してねえ』と周りにアピールしつつ、そのテストが返却時、中々の高得点を叩き出し学校の掲示板に貼り出され、それを見た他の生徒が『この人授業中いっつも寝ているのに、こんな点数取るなんて天才なのか?』的に勘違いして、すごい人として一目置いてくれる。ってやつを体験してみたいだけなのよ」
時東さんは続けざまに言ってきた。宜なるかな、あれがやりたかったのか。変わった人だなあ。すごい人として一目置かれる?ないない、どちらかというと嫌な人としてカテゴライズされるよ。女の世界は怖いと度々お聞きになりますし、んなことすれば嫉妬からイジメの標的にされるんじゃないか、美人薄命っていうけど、もしかして美人が短命な理由はブスからの嫉妬リンチが原因なのかもしれないな。美人はお高く見えるしね。まあ、高校にもなって分かりやすいイジメは起きないだろうし、まずそもそもこんなクレイジーな人には、誰だって嘘だって進んで関わろうとはしないと思う。だとすれば僅かながら特はしているのか。違うな。この場合は、二万円賭けて千円しか返って来なかった際、一万九千円の損と取るか千円の儲けと取るかの問題によく似ている。要するに物事は何でも捉え方次第ってわけだけど、今回のケースだの百人中九十九人は損と受け取るよな。無論、残りの一人は時東さん。彼女はまだ夢見る乙女っぽいんで、僕がどんな忠告をしようとも聞く耳すら持たれないと思うけど……
「分かってくれたかしら?私は無計画に事を運んでいるわけではないのよ。君もそんな私を見真似して痛々しい人間を目指してくれると嬉しいわ」
歩き初めて、ペットの如くつれ回されて、おおよそ二十分。時東さんは初めて僕の方に向き直った。と思ったら直ぐ様前に向き直った。僕が居なくなってないか確認でもしたのだろうか、学生鞄はガチガチに結ばれてるから逃げる筈もないのになあ。
「ごめん、時東さんみたいな才能のあるマルチチャンネラーじゃないから、授業は真面目に受けないとやってられないよ」
一度失敗してるのに、それを再び失敗すると知ってて繰り返すのは嫌だ。失敗は所詮失敗、成功の元というのは単なる言い訳、失敗しないのであればそれを避けるのは当然である。誰が進んで古傷を開くかよ。
「とんだチキン野郎、君も大概パンピーね、元中二病患者も落ちぶれたものだわ。そのあまっちょろい考えは今後リハビリしていかないと駄目よ」
いやリハビリした結果が現在の僕であって、これ以上は無駄この上ないと思うが、
「わかったよ」
一時逃れではあるけど、正直でありすぎれば無限回廊に陥りかねん。こうなれば指名手配犯みたく時効まで逃げ切ってやるぞ。僕はこの時そんな決意をした。
「理解してくれて嬉しいわ。
しかしこうして君と共に歩いていると、心なしか付き合っているようで面映ゆい違和感があるわね。旗からみればカップルとして写っているのかしら、さながら美女と野獣?あ、私が勿論美女枠よ」
相手は「僕は野獣じゃないよ!」みたいな突っ込みを求めてるのかな、なんだか掌で転がされているような感覚がして嫌なんで、今回は敢えて邪の道に行こう。
「もしかしてだけど、時東さんって友達いないでしょ?」
もしかしてでもないが……優しい僕は少しぼかして訊ねた。
「突然何を!失礼ね!友達なんて数えきれないほどいるわよ」
「それってもしかしていないから数えようが無いってやつ?それとも数えてしまうと、あまりの少なさに悲しくなるのが嫌だから数えないってやつ?」
「……どっちもよ」
成る丈言いたくなかったのだろう、少しばかり沈黙が支配した後、時東さんは答える。恥ずかしかったんだろうか、耳が真っ赤だ。背中だけでも動揺を感じる。ちょっぴし可愛いと思ってしまった。不覚なり。
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