第2話スカウト③

つーかナポレオンのことをナポって……お前は何様だよ。とか突っ込んでも無意味なんだろうなあ。


「そういえば、君はさっき私が授業中に居眠りしているだなんて言っていたけれど、私は居眠りなんて一切していなかったわよ」


時任さんは歩きながらそう言った。が、授業中何度居眠りを先生が注意していたか、いや、注意というよりかは心配していたのかな。眠ってて気が付かれてることにすら気付いていないとか、そんなマヌケな勘違いをしているのかなあ。あと、放課後僕が起こした時は自分で「居眠りしちゃっていた」って言っていた覚えがあるし、けどまあ細かい事はどうだっていいか、揚げ足とると煩そうだし。


「じゃあ何をしていたの?」


僕の席からは時東さんの席は直接見えないため、さっきの発言が冗談なのかの判断決めかねる。


「寝たふりに決まっているじゃない」


我が国における国民の三大義務を述べるように、極々当たり前に言ってきたが、違うぞ。なに勝手に決めているんだ。寝たふりでも旗からみれば寝ているとしか思えないよ。それよりも、


「なんで授業中にそんなことをしていたの?」


疑問はそこにある、中二病と何かしらの関係でもあるのかしら。ろくな理由でないのは確かだけどさ。


「理由を問われても困るわね。強いて言うなら格好痛良いからかしら、授業中だというのにガッツリ腕を組んで机にうつ伏せて、堂々と居眠りする姿はまるで一匹狼みたいでしょう。『私立高校という箱の中で長年馴れ合ってきた、世間知らずの哀れな教師の戯れ言には付き合ってらんねえ』って先生方に一方的な反抗をしてる感じがするでしょう。不良っぽいでしょう」


それは外見にもよるんじゃ?眉薄フェイスで髪でも染まっていりゃあ、そう受け取られるかもだけど、黒髪清楚で容姿端麗な図書委員系女子っぽい見た目の時東さんがやると、単に具合が悪くて仕方無く寝ている人としか捉えられないと思うが……現に時々『大丈夫か?』って心配されていたし。


「いくら痛い思い出を作りたいからって、授業中寝るのはどうかと思うよ」


高校は中学に比べて授業量も多く、正比例してテスト科目、テスト範囲もバカ広くなるらしいから、成績の為にも授業をちゃんと受けるのは重用なのに、このまんま留年とかしちゃったら、黒歴史云々言ってらんないぞ。


「君は、今日の授業、しっかりと理解できた?」


「あ、うん」


理解できたかどうかを問われると、思い悩む節は所々あったが、僕がちゃんとしていないと『自分が出来ていないのに、それを他人に指図するなんてどういう神経しているのかしら?君はレーシック手術を勧める眼鏡の眼科医のようね』なんて注意されそうだから、一応そう言っておいた。確かめようもないしね。しかし、


「君も黒歴史部の部員となるのだから、私を見習って授業くらいはマトモに受けないでほしいものね」


あろうことか注意された。人生で初めてそんなマトモじゃないお叱りを受けたよ。


「じゃあ授業中なにをしたらいいの?」


「君はもう少し自分で物事を考える力をつけた方が良いわよ。疑問符が多すぎる。なんて私が言えたタチではないのだけれども……そうね、授業中は板書そっちのけでポエムとか書いていれば良いんじゃないかしら?」


「ポエムは流石にキツいよ」


「あら、その言い様、もしかしてポエムにトラウマでもある感じ?あるわよね。だって君は元中二病なんでしょう?教えなさい、どんな痛々しい内容だったのか」


「……」


絶対言えるわけない。あんな内容。あんな出来事。今となっては懐かしく……ない!今だって恥ずかしい。忘れもしない中学二年の春。


『タイトル:砂の粒  作:宮國 空人


ほら、砂の粒が歩いている。無個性どもの集まりが。


ほら、砂の粒が叫んでいる。わいわいがやがやうるせえな。


ほら、砂の粒が笑っている。本当の意味すら知らないで。


ほら、砂の粒が泣いている。気持ち悪いから目を潰せ。


ほら、砂の粒が着飾っている。砂に真珠というのにね。


風の流れに乗って、どこかも知らない場所に墜つ。


水をかけりゃあ固まるが、脆くて柔くて直ぐに散る。


みんなみんな砂の粒。みんなみんな砂の粒……』


以上。僕はそれを授業中に数学の教師に朗読された過去がある。授業そっちのけでひっそりと書いていたものを不注意から取られてしまった。堅物で有名なアイツは、僕を注意するためだろうな、「これはなんですか?数学の授業とは関係ない内容ですよね。えっと、」の後、眼鏡をクイっと掛け直し大声で読み上げやがった。読み終えた後の周りの反応は……お察しである。それでもあの時は『目立ててラッキー』とか『やれやれ、僕の恵まれたマルチな才能がこんな所でお披露目されるとは、明日のラブレターが楽しみだ』と、勝手に解釈していたが、今となってはアイタタタ。思い出す度、身体中が赤く熱を帯び始めちゃうよ。

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