第2話スカウト①

最悪だ。そう感じたのはいつぶりだろうか。昨日は無事帰宅できたものだが、家についたのが二十一時、生まれてはじめてこんな遅くに帰ってきたもんだから、両親は僕が入学早々素行不良になったのではないかと心配していたよ。それもこれもあの人達のせい。


まさか、形式に沿った念書を書かされるだなんて、口約束程度のもんだと捉えていた自分が愚かだった。従わざるを得なくなってしまった。



さてこれからどうしようか。


教室に早めに着いたは良いが暇である。こういうとき、雑誌では『休み時間は一人で読書をするのがCOOLでイカす』なんて書かれていたが、ジャンルまでは教えてくれなかった。


本なら何だって良い訳でないのは自分でも知っている。中学時代はよく学校で、何故潰れないのか分からない個人経営の古本屋で買った千ページ超の洋書を、堂々すまし顔で読んでいた。どの言語かすら把握していなかったのに僕は格好いいと思ってこなしていた。それ故に困ったのが読書感想文。僕は書きようがないのに見栄をはって、あろうことかその洋書を選んだ。内容をネットで調べる術も試してみるも、表装すらも謎言語に覆われてて『洋書』という大味なキーワードしか打てなかったもんで、大量にヒットはしたが、それらしいのは何一つとして見つからず……最終的に読書感想文は僕の想像のみの構成となった。内容はカオスな上に、各々活発で衝突しあってて、結局何を伝えたいのか分からない駄文の集合体に、担任の先生も『?』な顔をしていたのを思い出しちゃうよ。家にはそんな洋書がまだ百余冊もある。むしろそれ以外ないくらい。ジャンルの偏りが凄いんで、高校デビューを目指している為、自宅から持ち込みは今回止しておいた。近日中には図書館にも立ち寄る予定であるからそれまでの辛抱だなあ。




時刻は八時三十分。点々と他の生徒も登校してくるなか、


ガララララ


入口扉が開きまして、時東さんも登校して来た。一匹狼的な登場シーンからは、そこはかとない神々しさを感じさせる。が、実の所は避けられているだけ。時東さんが教室に入ってくるなり、入口手前で談笑していた生徒等を皮切りに、周りが退き一つの道が出来る。時東さんがS極ならば皆はN極だ。って、早速引かれているじゃねえか。


そのあと僕は「たのもー!」とか言いながら入ってくる姿を予想していたが、無言で、真顔、片手にのみ装着されている指なし手袋が多少は気になったけれど、それ以外は至って普通だった。すれ違い様に何か言われるとも予想していたが、裏腹に時東さんは、僕なんて気に止めず、多分自席に座りこんだ。


昨日の事故紹介通り一般人には興味のない人というキャラで押し通すつもりらしい。これでいいのかあなたは、絶対に後悔するぞ。何にせよ僕からしてみれば、時東さんに話しかけられないのは喜ばしいことである。自分まで変なやつ認定は受けたくないからね。




春休みというインターバルは、僕の心身を堕落させるのには充分だった。授業って、こうも難儀なものでしたっけ。改めて思う、授業を受けるのはつらいなあと。


何がつらいかって?担当の先生の授業をちゃんと受けている演技をせねばならないのがだ。大勢の前で注意されて悪目立ちしてしまっては堪らんからね。念仏のように流れてくる起承転結のない話なんてされた仕舞いには地獄。度重なる眠気との戦いが始まる。倒しても倒しても起き上がってくる。それはさながらゾンビ。そんなんだから終わりを告げる鐘がなるまで意識を保つのは至極難しい。殆どの教師は寝ている生徒に対して、『居眠りするのはお前に否がある』的なニュアンスで叱るが、僕から言わせれば『途中で居眠りしてしまうくらい退屈な授業をしているお前にこそ否があるのでは?』って感じだ。教科書を朗読するだけの授業をしやがって、お陰でこっちも大変なんだよ。


学校は理不尽を学ぶための施設と分かっているものの、こんな感じでついつい愚痴が漏れてしまう。


授業中、そんな眠気との格闘をしている中、時東さんは、ずっと居眠りしてたらしくて、一時限目の国語の授業から既に居眠りを注意されまくっていた。でもそんなの御構いなしに眠り続けるので、後半になるにつれ、どの先生も完全に無いものとして授業を進めていた。昨日の元気は何処へ?それを見ていると正直羨ましいと思えてくるが、今後を考えると恐ろしくって考えたくない……


結果、そんなこんなあり今は放課後だけど現在まで、ずっと時東さんは机に伏せて寝ている。一向に起き上がらないので「もしや死んでるのでは?」とさえ思ったが、よく見れば僅かに背中が動いていた事から呼吸はしているっぽかったので、生きてはいるんだろう。そんな居眠り時東さんを僕は、揺すって無理矢理起こす。

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