第1話黒歴史部⑨

「さて、第一回作戦会議を始めましょうか」


 時東さんは、座り直し、一丁前に進行を始めた。


え、もしかして僕は既に元中二病枠で入部予約されちゃってるパターン?いけない、断らないと。


「僕は入らないよ」


言ってやった。でも、それに対して誰も何も言ってこない。問題だ。時東さんは真顔。対照的に相原さんは独自の世界に突入しているのか、携帯の液晶画面をみることに熱中しつつ一人でにやけている。さっきからずっとそうだ。喜怒哀楽が凄い。古本屋で立ち読みしながらでも一人で笑っちゃうタイプだろうな。時東さんには相原さんを見習って、もっと感情を表情に出してほしいよ。初顔合わせで言うのもなんだが、


「あら、どうして?」


ティーカップに移された水を飲んだあと、時東さんは僕に問うた。理由?一つしかない、


「まともになりたいからだよ。あなた達が言うように、奇をてらいたくないんだよ」


「その言い分、君、もしかして自称『ふつう』な高校生になろうとおもっているの?いつの間にか美女ハーレム一派を築く算段ね。無理無理、現実は想像以上に悲惨なのよ。現実を直視しろとは言わないわ、けれども夢をみるのは程々にしておきなさい」


引き留めているつもりなのだろうか。にしても今の台詞、そっくりそのまんま返せるよ。特に終わりにかけて……時東さんこそ程々にしておくべきだ。自分だけでやるのなら、どうぞご自由にって感じだが、回りを巻き込むのはよした方が良いぞ。抜群のカリスマがない限り絶対嫌われるから。


「時東さんと関わるくらいなら、ふつうで結構だよ」


酷いこといっちゃったような、まあ事実だし良いか。僕まで変人と思われるのは御免だから。


「まあ、無理もないわよね。けれどそんなの知ったこっちゃあないわ。あなたはもう既に私らの一員です。大人しく手伝いなさい」


「僕からしてみたら逆に、あなた達のことなんて知ったこっちゃあないよ。ごめん、僕は遠慮しておくから……二人で頑張ってね」


やっていけない。と、瞬時に悟った僕は、そう断るなり、即刻部屋を出、時東家を出た。外は日が暮れそうになっていた。



こうして僕と痛々しい女子高生との、面倒臭く、ひたすらに一方的な出来事は終わりを告げた。終わらせた。クラスメイトではあるが、断りを入れたし成るべく距離を置けば安心。なんて、今日起こったことは忘れよう。心機一転、明日から学校だ。楽しみであるなあ。一体どんな人と出会えるのか、遠足の前日並みの高揚が僕の歩みを囃し立てる。



ところで……ここはどこだ?



こんなマヌケな事がありますかね。ありました。現在進行形でした。


帰り道が分からない。


時東さんに連れ去られた時は周りなんてみる余裕なんてなかったし、学校からも結構遠かったし、いかんせんこの地に通い始めたのは先週から、土地勘には疎いのだ。


午前中に帰る予定だったんで、財布には電子マネーしか持ち合わせていない。


たしかそれだけでもタクシーを使えたな。少し嵩むが入学記念として奮発しよう。!まさか!


数えられる程度しか着ていないカチコチな制服のスボンのポッケをまさぐる最中、とんでもないことに僕は気づいたんだ。


ーサイフヲナクシター



ピンポーン


再三思考した結果、僕は時東さん家のインターホンを押すことに決めた。


「はい、どちら様で」


時東さんが入口扉越しにそう確認してくる。


「三佐上高校、一年二組の宮國 空人だけど、あの、頼みがあるんだ」


この際、プライドとかそういったものは捨てる。近場で遭難するよりは何倍もマシだ。道を教えてもらう。あまつさえお金を借してもらう。


「何か言いました?全然聞き取れませんでしたよ。もしかしてセールスですか?ならお断りしております故、お引き取り願うわ」


入口扉越しに、そんな大根顔負けの棒口調が聞こえてきた。この調子だと、おそらくこれから僕が何を問こうが、秘密の合言葉を言わない限り、同じような返事しか期待できないいな。嗚呼、言いたくないなあ。


「手伝うから、用件を訊いてくれよ」


やむを得なかった。まあ、ちょっとなら良いだろう。所詮口約束、いざとなればしらばっくれてしまえばいいしね。


ガチャリ


僕が宣言したあと、入口扉は開いた。トホホ。着実に理想の学校生活からは遠ざかっているような気がするよ。僕の青春は曲がってゆく。

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