第1話黒歴史部⑧
「そりゃあ君にも手伝ってもらいたいからよ」
頬杖をつきながら発された時東さんの答えは意外にあっさりとしていた。でも、水に限り無く近い麦茶の如く、逆にあっさりとし過ぎてて駄目だ。これじゃあ誰だって良いじゃんってなる。
「なんで僕なの?」
「君は同じような質問しかしないのね。赤ずきんちゃんでも、もっとマシな事を尋ねるわよ」
気の抜けたような口調。同じような質問しか出来ないような事しか言っていない時東さんに非があると思うのは僕だけか……僕の質問は「おばあさんの耳はどうしてこうも長いの?」以下ですか。まあ良い、目は通しときましょう。そのあとすぐに棄てるけどね。
「四季!拗らせようとしないでさっさと言いなよ、そろそろキレられちゃうよ」
相原さん、あなたはエスパーですか、って、僕の感情が表情に漏れているだけなのかなあ。
「足りない部分があったわね。君は中二病患者として、私たちに中二病のイロハをアドバイスしてもらいたいのよ」
いや、待ってくれ、
「僕は中二病じゃないよ」
よしんば中二病だったとしても、無自覚だろうし、中二病にイロハもクソもないので教えようもない。分かってても黒歴史、元より教えるつもりもない。
「あら、じゃあ元中二病かしら?」
「……」
「その様子じゃあ図星のようね。やはり私の目に狂いはなかった─」
時東さんは、何もかもを見透かしたような目をしている。どうして分かったんだ、当てずっぽうか?クラスメイトにせよ四十人強はいるわけで、そこから僕一人選ばれる確率は決して低くもないが……狂いはなかった?ってことは勘ではないのか、それなら更に疑問は増すばかりだ。かつて一緒に遊んだ記憶もないし、正真正銘初対面。僕が中学の時の噂がここにまで蔓延している、なわけないよな。第一そんなしょうもない噂で話題になるほど、ここはローカルな世界じゃない。もしかするとあるのかもしれない。中二病の人に共通する人相ってやつが。手相ならぬ顔相か、シワで判断するとかだったら、失礼極まりないな。だとすれば表にでないのも納得できる。無論、到底そんな理由で時東さんが僕を中二病だと決めつけたとは思えないが、ちょいとばかしのまさかが在りそうなんで、一応可能性として頭には入れておく。でも、そんなことではなかった、
「今日の自己紹介の時、殆どの人が冷笑していた中、君の瞳だけは慈愛に満ちていた。過ぎるほどにね」
中二臭く時東さんがそう言ってきたからだ。なるほど、
「じゃああの自己紹介は
「そう、選定作業も兼ねていたのよ。効率的でしょ」
人の話は最後まで聞いてもらいたい。へえ、でも考えていたのね。それにしたってあのクソダサい決めポーズは要らなかったと思う。けど演技でもあれを堂々やれるメンタルは尊敬ものだ、若気でもそんなに至れないぞ。何がそこまでさせるのか、
「なんでそこまでするの?時東さんの結局の目的はなんなの?」
なにか心を突き動かす要因があるのだろうか。しょうもなさそうな理由であることに違いはないが、僕をここに呼んだ理由にもなり得そうだから尋ねてみた。
「私にはね夢があるの。いや、夢と言うより目標と言った方が良いかしら。
この高校で新たな部活を創るというね」
ほほう、それはまたショボい。たしかに夢とは言えないな。
「私は新たな部活動を創りたいと思っているのよ」
二度言わずともちゃんと訊いてたよ。それに、繰り返して言うようなことでもないよ。いや、わりと大事なものかもしれぬ、部活ですって、
「部活?」
「そう、部活。青春に不可欠な要素。万年どの部にも所属したことない私からすれば憧れの対象だったのよ。だから春休みに、ここを下見に行った際、ついでに部活風景も見学させてもらったのね、すると、どこもかしこも弱小なくせして無駄に熱血だったのよ。私の求めているのはそんなもんじゃない。もっとテキトーで、もっとダラダラしている部活なんてなかったわけ、でも私ってポジティブでしょう。なので直ぐに考えを切り替えられたの、無いのなら創ればいいじゃないかって」
安直な理由だなあ。学校で必要とされていないから無いんだろうて、余程の事でない限りフィクションと違って実際、創部は難しいと思うが、で、
「僕もそれを手伝えってこと?」
「当たり前じゃないの」
当たり前じゃないよ。というか、どんな部を創るかにもよる。
「時東さんは、どんな部活を創ろうと考えているの?」
よくぞ訊いてくれました。と、いわんばかりに時東さんは勢いよく立ち上がると、
「黒歴史部よ!」
そう言った。
表情は変わらずやっぱり真顔である。馬鹿げている。学校側から許可されるとは微塵も思えない。顧問だって誰もやってくれないと思う。だいたい学校でやる意味があるのか。痛い事をして思い出作りをしたいのであれば学校終わりや休日に仲間達だけで、身内にしかウケない寒い動画を、どことぞの動画サイトにアップしたりすればいい。他人を勝手に巻き込んでほしくないな。トホホ。ふと気になったので横を見た。相原さんは、何食わぬ顔でやっぱり携帯ゲーム?をしている。初めから知っていたのか。なら、さっさと説明してくれれば良かったのに。そうすれば僕ももっと早く帰れたのに。
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