第1話黒歴史部⑦

「今しかた言った通り、私は中学生の時は孤高の存在と化してて、三年間まともに他人と会話できていない学生生活を過ごしていたのよ。それはそれは振り返ってみても大層悲惨なもの。そうなればやはり『高校ではかわるぞ!』なんて意気込むでしょう。私も当然そんなパンピーの内に入ってたから、高校デビューすることに決めたのよ。でもどうやって、何をもってデビューが成功なのか分からなかった私は、受験勉強そっちのけで悩んだわ。残念ながら全然浮かんで来なかった。いくら悩んでも出てこないので、気分転換にアニメを観ることにした。すると、二月の終わりごろかしら?画面越しだけど、私と同じような境遇の少女に出会ったわ。彼女は、たかが三年間の為に、今後の人生を無駄にするつもりかと言わんばかりに高校デビューを必死に意識していた。結局、そこの子の思惑通りにはいかなかったけれど、話数が増えると共に増えてゆく面白みや深みに感銘をうけた。これをキッカケに他のアニメにも入り浸るようになりまして。お陰で無事、第一志望を落ちたんだけれどもね。


この時、私は高校デビューをするというよりは、高校で思い出作りをしたいと思ったので、真剣に考えていた。そしたらある論が頭を過ったの。『良い思い出よりも恥ずかしい思い出の方が記憶に残りやすい気がしないか』と、さしあたって青春を謳歌すべくには痛い行動の積み重ねあるのみなのではないかとね。痛いことって当時は気が付かないものだけど、冷静になってふと思い返すと恥ずかしいものな訳じゃない?だから、それに蓋をしてまとめて『黒歴史』って名前をつけてるんでしょう。世間一般だと大っぴらに出来ない秘密みたいなもの。持ち主の弱点みたいなもの。しかし見方を変えてみればどうなるかしら?馬鹿と鋏は使いようというでしょう。


恥=思い出に残りやすい=青春


あの時そんな式が降ってきたわ。弱点だとされている箇所を強みにすれば向かうところ敵なし。それを期に、いたいけな痛い少女でいようと思った。誰も進んで黒歴史をつくろうとは思わない故にそうすれば周りから確実に痛い認定を受ける。恥を原料に青春をつくれれば低コストで量産可能、これほど恥作りもとい思い出作りに便利なものはないわ。


ところで世の中の風潮では、ラブチュッチュしたり部活動をしたりする青春の形が求めてるけど、敢えてそれをやらないのは、それじゃあ容易に出来てしまいそうでつまらないから。ほら、私って可愛いじゃない?手入れが完璧に行き届いている綺麗な黒髪。端正なルックス。自分でも毎度うっとりしちゃうのよね。中学生だった頃は、数々のオスゴリラ共からの告白を、全てはんなり切り捨てて『童貞キラー』の異名をもっていた程よ。その代償として女子からはハブられ、孤高になる一途であったんだけどね。ああ、あの時何人かのジョニーを刈っておけばよかったと素直に反省しちゃうわ。ところで、話がずれたような気がするけれど気のせいかしら。君は理解してくれたのかしら。私がわざと痛い自己紹介をした理由を……なんて、以上は全て後付け。本当は単純に『やってみたかった』その一言に尽きるわ。どう?分かってくれたかしら、ちぐさ?」


「!びっくりした~。なんで私に聞いちゃうのよ。こういった場合は普通、隣の……って誰でした?あなたの名前をまだ聞いていなかったような」


相原さんは、一瞬驚きをみせるも、持ち前の順応性から、すぐさま持っていた携帯をテーブルに置き、僕に話を向けてくれた。が、


「コレは宮國 空人(みやぐに そらと)。属性はたしかパセリだったはずよ」


ティーカップ片手に寛ぎながら一息ついてる時東さんが答えてくれた。僕はいつからそんなビミョーな属性を得たんだ。と、疑問ではあるが、少なくとも主役でないことは確かである。そんな時東さんの話は、ぶっちゃけ中盤ウトウトしてて聞いていなかったが終盤にかけてちょっぴり巻き返したので、ある程度はわかったつもり。何が「恥は思い出」だよ。恥は恥だ。恐らく時東さんは現役で中二病なのかもしれない。だからまだ気づいていないんだ。自分がやっている事の恐ろしさに、僕だって当時はそれがトレンドだと、格好いいと思い込んでいたさ、二次元世界と、この世でのやって良いこと悪いことの区別がイマイチ仕分け出来てなかった。己には、未知の潜在能力が秘められてるもんだと信じて止まなかった。時間が教えてくれるだろうから何も力になれない。温かい目で傍観してノスタルジアに浸るしか出来ない。それよりも、『童貞キラー』って……中学時代から充分痛々しいかったんじゃないのか。て、僕にはもっと知りたいことがある。


「なんで僕をここに呼んだの?」


つーか、初めから訊いているのにいつの間に内容が刷り変わっていたんだろう。

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