第1話黒歴史部⑤

おっ、このぬいぐるみ、この前ゲームセンターのUFOキャッチャーで二千円溶かすも取り損ねたやつだ。欲しいな。それにしても女子高生のお部屋とやらはこういったものなんだな。誠に手入れが行き届いている。よもや下着の一つ二つ落ちているもんだと思っていた分ガッカリ。全体的に色合いが統一されてて、シンプルであるなあ。物を置かないタイプなんだろうか、本棚とベットしかない。あ、あとは僕らの前にある折り畳み式のテーブルくらいかな。でもこれは来客用っぽい。……ここら辺でお気付きだとは思うが、現在、そう、僕はとっても暇をもて余しているのである。時東さんは、僕らを置いて何処かに行ったっきり全然帰ってこない。トイレにしても何にしても遅すぎでしょ。横に見知らぬ女子高校生がいる状態で待たされている身にもなってくれ。さっきから気まずい雰囲気が漂いまくりだよ。



「えーと、まず私から自己紹介した方がいいよね」


険悪な空気に負けたのか、先に話しかけてきたのは女子生徒さんだ。


「あ、うん」


「じゃあ、私の名前は相原 千草(あいはら ちぐさ)。あなたたちとは別のクラスだけど、同級生。存在感が薄いから学校で見つけるのは大変だと思うけどよろしくね!」


「よろしくお願いします」


通行人Bって感じの佇まい。正座しているし、それなりに躾はさせれているようだな。


「ところで相原さんは時東さんとどういった関係なの?」


一番の気になり所を問いただしてみた。同居人?別姓双子?あっちが活発だとすれば、こっちは大人しめ。黙っていればどっちも雰囲気は似ているが、成りは似ていないよな。時東さんの発言は全般的に虚言臭いが、まさか本当にピッキングして侵入したのか。人は見掛けによらないを、この目で見届けたばかりの自分には、もはや偏見はない。どんなことにも驚かない自信がある。


「ちぐさは私の唯一の下僕よ」


!!即効でビビってしまった。けれど、これは突然、部屋の入口扉が開いたからであって、内容に驚いた訳ではない。いや、驚きはしたが、表面に出すには至らなかったぞ。多分……


今のは時東さんの声。入口扉を開けながら、相原さんに訊いたのに時東さんが代わって答えてくれたのだ。


「下僕って、四季は私のことを今までそう思っていたの!?なんていったやり取りを臆面なく繰り広げちゃうような仲なんだ。平たくいえば友達かなあ」


突飛な発言に対して物怖じせず華麗に流すスタイル、流石お友達と自称するだけあり手慣れているな。よくみると時東さんの片手には、この空間に似つかわしくない豪華なティーセット一式の入ったお膳が。今までお茶でも沸かしていたんだろうか。待たされた理由はこれか。


「君達の存在なんてすっかり忘れ、今の今まで、録画していた番組をリビングで優雅に観ていました。待たせてしまって悪かったと反省しているわ。お詫びでも何でも無いのだけれど、出来が良かったのでどうぞ自由に飲みなさい」 


偉そうに話してるが相当マヌケである。でも、少しは申し訳ないと思っているのか、テーブルにお膳を下ろすなり、僕の手前にティーカップを置き、そこへ時東さんがティーポットで注いでくれた。


「どうぞ」


透明?差し出されたティーカップに入っていた液体は透明だった。


「これって何?」


高級なお茶は透明なのかしら。


「我が家のキッチンでさっき採れた新鮮な水よ」


自分の飲む分を注ぎながら率直に答える時東さん。ただの水道水じゃねえか。喉が乾いていたんで潤してくれるのなら何でも良いではあるけど。グイっと飲んでみる。うむ、なんてことない水。しかしこのティーカップが、みるからに高級感あふれる見た目だったんで落差は凄まじい。いけない、そんな評論している場合ではないな。


「説明してくれない?僕をここに連れてきた理由を」


と、潤った声で時東さんにそう訊ねた。それに反応し、僕ら同様、床に座ってお水を飲んでいた時東さんの手は止まる。


「話したら長くなるけれど……それでもいいかしら?」


僕の顔を見て、そんなニュアンスで問いかけてきた。こういうとき「いや、結構だ」と、面倒臭がって断るのが鉄板であるが、


「ちゃんと聞くから、説明お願いするよ」


時東さんは、意外そうな顔を浮かべている。意表も何も、訊かない選択肢は元よりないだろ。昨日みた夢の話じゃあるまいし、


「良いわよ分かったわ。教えてあげる」


原因不明の間が一瞬生まれたのち、時東さんは姿勢を正し、話を始める。

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