第1話黒歴史部④

引っ張られ続けてしばらく経つ。時東さんよ。周りの視線も気にしてほしい。信号待ちの時なぞシュールそのものだったぞ。それにしてもまだか。一体何処へ向かっているのだろうか。


「あの、時東さん……その私事って具体的にはどんなことをするの?」


しびれを切らした僕は、口を開く。


「あら、私の名前を覚えててくれたのね。嬉しいわ」


そりゃあ、あんなことをされれば誰だって一発で覚える。じゃなしに、


「私事について教えてよ」


「私事……そうね、ここで言っても良いのだけれど、それでは仲間に同じ内容を話す手間が増えてしまうからシークレットね」


「じゃあせめて、今から行く場所だけでもいいから教えてよ」


「それもシークレット」


なんだよシークレットって、マイブームなのか。先程、友達がどうのこうの言っていたな。ボーイフレンドって場合もある。廃墟ビルでムキムキな男の人達に集団リンチされるとかは御免だぞ。


何を言っても「シークレット」ではぐらかされそう。まともな返事を期待できないので、お先黙りしながら僕は引き続き引っ張られ続ける立場に甘んじる。



少ししまして時東さんの足が止まった。信号待ちではない。辺り一面住宅まみれ。大凡ここが目的地だと思う。


「ここ?」


「そうよ」


ようやく開放された制服はビロンビロンに伸びきっていて、どっちにしろもう使えねえ。ここはどこだよ。周りに沢山の建物が並んでいて、よくわからない。


「付いて来なさい」


時東さんは、そういい終えると再び歩き始めた。ここまで来たら従うしかない。ままよ、後は野となれ山となれだ。



二階建ての小さいアパート。部屋は六つくらい。その一階の一番奥の場所。『時東』の表札が時東さんの自宅であることの確証。目的地として、サスペンスドラマに出てくる崖のようなとこを想像していた分、正直ほっとした。


「ここが私の住んでいる愛の巣。どうぞお入り、土足は厳禁よ」


時東さんは入口扉を開けて僕を誘導する。うん、まあ普通のアパートの一室だな。女性用の靴が一つ。母親がいるのか。僕は玄関で靴を脱ぎ、時東さんの自宅に入った。


「さてまあ、こちらにどうぞ」


言われるがまま奥に入ると、時東さんの自室?扉がある。それを開けると、


「あ、えっ、わたし、部屋間違えてますか!?」


自校の制服を着た女性が、なんやあたふたしながら立ち上がって、僕にというか自分に問いただす。状況がよりいっそうカオスになってるんだが、


「あらま、来ていたのね。てっきりトンズラこかれたのかと思っていたわよ。それよりも、ここにどうやって入ったの?ピッキングでもしたのかしら?」


僕の後ろから、ヒョイと、身を乗り出して、その女子生徒に時東さんは話しかける。


「うえ!って、なんだ四季か~。もう、驚かさないでよ。てっきり部屋を間違えたのかと思っちゃったよ。ところでこの人だれ?またセフレ?」


「セフレ!?」


「あっ、ごめん冗談だから気にしないでね」


「すぐに訂正。これはマイナス十点ね。もっと責任を持たないで発言しなさいと何度教えたことかしら」


「そんなの教わった覚えなんてないよ。って、いつから採点システムが採用されてたの!」


「あの……」


僕は二人の間に無理矢理入り込む。自分はアナタたちのことなんて何も知らないんだからさ、勝手に身内でやり取りを始めないでおくれ。気まずさこの上無しだよ。


「あらまあ、君、いつからここにいたの?しかも何故こんな所に?ここは私の家よ、不法侵入で訴えられたいのかしら」


自分で連れてきておいて扱いが雑すぎる。そこまで言うのなら帰ってやろうか。


「真顔な分、四季の冗談は分かりづらいよね。ところであなたが……だれ?」


名前も知らぬ女子生徒は、すかさずフォローに入る。てか結局分からないのかよ。なんなんだ。状況が飲み込めないのでもう少し情景描写を増やしてもらいたいよ。


「コレは私が連れてきたのよ。前にアナタにも伝えたはずよ。説明してあげるから二人とも、取り敢えずここら辺に座って待ってもらえないかしら」


時東さんは、そう言うと何処かに行ってしまった。『コレ』呼ばわりか、なんて言いたかったがタイミングを見失っちゃったんで、僕は黙って時東さんの言う通り、名前も知らない初対面の女子生徒と共に床に座わって待つことにした。

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