第1話黒歴史部②

少しばかし暇な時間が生まれたので、自分の席で待ちながら、そんな妄想を垂れ流し、暇潰しをしていたら、


ガラッ


そんな感じのサウンドエフェクトと共に、入学式で紹介していた担任の先生が入ってきた。


「こんにちは、今日からこのクラスを受け持つこととなった、木原 祐二です。一年間よろしくお願いします」


入ってくるなり、そう言ってきた。入学式の時にも聞いたのに、再びおんなじ内容を英語のリスニングテストの如く繰り返して教えてくれるとは、なんて親切な担任なんだろうか。見た目は四十代後半。事務的な挨拶から、それなりの場数を踏んでいるように感じ取れる。妙に落ち着き払っていて『THE・真面目』ってアダ名が付いていそうだな。恐らくだけれど数学教師。黒板にチョークを使ってフリーハンドで綺麗な円を書くイメージが既に浮かんでくる。この手の堅物タイプは大変厄介。中学の頃を思い出す。あの頃にもいたなあ。その人も数学教師。中学の頃、数学の授業中、証明問題にて、


『(証明)


答えのある学問なんて死に学問だ。


我は、生きている学問しか学んだ覚えがない。


ゆえに解なし』


こんな理論が破綻してて痛い解答を、前に出て黒板に書いた当時の僕に対して「君の書いた証明は間違えている。まず第一に……」とか、初めから終わりまで、沢山の矛盾した箇所を洗いざらい指摘し、授業が丸々潰れたことがあった。普通なら進行とかも加味した上で、スルーなり、あとから職員室に呼び出すなりし、次に進むでしょ。ああいったタイプは、あの解答をみて、きっと「本気で考えた結果、彼なりに導きだした答えがこれなんだろう。予習が足りていないな。宿題増やそう」みたいに感じ取ってる気がする。だから熱心に一から、こちらが分かると言うまでしつこく教えてくる。次いで、この手のタイプは基本的に正論だから面倒。まるで、綺麗事しか言わない人と会話しているみたい。今回の担任は、そうでなければいいんだが初っぱなを見た限り望み薄。生徒は担任を選べない。潔く諦めよう。


「私もしましたので、これから皆さんにも自己紹介をしてもらいます」


僕が勝手に推察してたら、いつの間にか担任が進行をしていた。自己紹介か。コイツで何度失敗してきただろうか。懐かしい。かつての自分ならば「どうも~オイラの名前は宮國 空人(みやぐに そらと)でぇ~す。十三歳独身。彼女募集中で~す」とか、赤面モノの御寒いジョークで、スタートから大転倒してたが、この度のニュー宮國 空人は一味も二味も違う。もはや別の料理ってレベルで変化した。『無難が一番』と、雑誌で読んだ記憶があるんでね。そうこう思考してる内に僕の番が刻々と近づいてきている。どうも出席番号順で回ってくるらしい。皆さん相変わらず危なげない自己紹介をそつなくこなしている。凄いなあ。



しばらくしたら僕の番がきた。席を立ってその場で、「宮國 空人(みやぐに そらと)といいます。趣味は料理をすること。好きな食べ物はカレーです。よろしくお願いします」


言えたぞ、好印象確実。料理なんて勿論やったことないが、これがモテる趣味らしいので仕方ないよね。カレーも同じ理由。本当は腹緩くなるから、どちらかといえば嫌いなんだけど、誰もそんなの知り得ない。こんなの言ったもんがちだ。てかクラスメイトの大半がそんなもんだろう。じゃないとあんな無個性でつまらない自己紹介なんてしない。茶番だけど一興ってやつ?こう考えると、時分はなぜあんなにもウケを狙っていたのか、改めて恥ずかしい。のたうち回りたい。



無事に自己紹介を終えることが出来、僕は着席、そして安堵からうつむく。今日すべきことは達成完了。さすが僕、やるときはやる男。こう自分で自分を誉めている間にも、


「では次」


自己紹介は着々と進んで行く。もうそろそろ終わりそうだな。と、


ずけずけ誰かが僕の隣を通りする姿がぼやり瞳に写りこんだ。何事だと顔を起こす。げ、あの人だ。さっき確認した黒髪清楚な女子生徒さん。大人しめな印象は何処へ。てか何をするつもりなのか、席から立ち上がるだけで良いのに。そんな女子生徒さんは脇目もふらず教卓の近くに立つ。そして僕らの方に身体を向け、


「私の名は時東 四季(ときとう しき)!属性は水!必殺技はブルーベワイドスプラッシュ!一般人に興味はないけれど話くらいは付き合ってあげるわ。暫定的に一般人にども、よろしくお願いします」


キレキレな、決めポーズ?と一緒に、ひどく痛々しい自己紹介を恥じらいなく披露してくれた。



周囲に戦慄が走る。時が止まったような静けさ、これはデジャヴ?中二病にも種類があるわけで、恐らくこの人は好きなキャラクターになりきるタイプ。この手のでしゃばり屋は、やたらめったら難しい言葉を使いがちで嫌われるパターンまっしぐらなため、途中で気づきを得やすい。ひいては比較的マシな部類である。それでも目も当てられない惨劇なのは周りの反応が如実に物語っている。頑張れ!頑張って気づけ!自分がやっている事の愚かさに。今の僕には残念ながら、あなたを心のなかで応援してやるのと、温かい目でみるぐらいしか出来ない。トホホ、昔の自分を思い出されるようで心苦しいよ。

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