第3話 哀愁の技術奨励賞の巻

 ところが、である。それからしばらく経ったある日、バ会社員は急に課長に呼び出された。いよいよ来るべき時が来たかと思ったが、課長はすこぶるご機嫌だ。なんと、「乗ってるとき」の気まぐれな実験を学会でしゃべったところ、注目されて会社に連絡があったのだ。


「木下君、今が頑張りどころだ。これまでのすべてを挽回できるよ! 君、工業学会の技術奨励賞に応募したまえ。本社の幹部も君に期待しているよ……」


 バ会社員はさすがに喜び、乗りに乗って論文を書き上げた。すると、その技術奨励賞がポロッと取れてしまったから大変だ。今まで全く出世と関係なかったバ会社員が、ある日突然、光輝く巨大な飴玉を手にしたのだから。


 バ会社員も喜んだ。それでも相変わらずの勤務態度を続けていると、なんと査定はキンチャクの小さな飴玉一個分と同じだった。


「僕は、なんとかしようと頑張ったんだけどねえ……お前に言っても仕方がないか……その生活振りがなかったら、あの不思議なアイディアも出なかったんだろ?」


 課長はそうつぶやいて通り過ぎた。このとき、バ会社員は心に決めた。この会社にいる限り、ずっとバカを通すのだと。


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