いつもの学校2

 何てことを言われても、俺は昼からも授業がある。

 ニースはあのまま、あの場所で俺の授業が終わるのを待っているらしいけど、そのせいで今の俺はとんでもないことになっている。

「おいおい、綴木つづき! あの外人さんって誰なんだよ!?」

「モデル!? 何で、お前の服を着てんだよ!」

「親父さんが海外に行ってんだよな!? ホームステイってやつか!?」

 周りに居るクラスメイトから、かねてより夢だった質問攻めにあっている!

 転校していないのにも関わらず、質問攻めにあっている!

 サイコウ!!

「ほらほら、みんな。もうすぐ先生が来るから、そろそろ席に着かないと」

 俺が質問攻めにあって悦に浸っていると、隣に座っている小鹿おじかさんが呆れた様子で声をかけてきた。追い払う――というと言葉が悪いけど、注意する小鹿さんに誰も文句をいうことなく皆散っていった。

 残念。

「それで、私も聞きたいんだけど?」

 なるほど。小鹿さんもニースが何なのか聞きたいから、他の皆を散らせたんだな?

 そんなにも興味があるのか、俺の目をジッと見つめて、これがまた熱い視線が溜まりませんわ。

「あぁ、ニースね。うん。一昨日ウチに来て、何か分かんないけど悪い魔法使いが居るとか何とかいって、忠告しに来てくれたんだ」

「魔法使い? おとぎ話みたいね」

「やっぱそう思うよね?」

 まぁ、その魔法使いの端くれが俺なんだけどね。本当の、異世界からやって来た魔女のお陰で魔法が使えている感じだけど、魔女カトルが言うにはセンスはあるそうだ。

 これは、未来に期待だね。

「ところで、彼女から何か渡されていたみたいだけど、見せてもらえない?」

「あぁ、良いよ。ニースが、絶対に人に見せるなって言っていたけど、小鹿さんには特別に見せてあげるよ」

「ありがとう。――で、これは何が描かれているのかしら?」

 紙に描かれているのは、ニースが描いた魔法使いの似顔絵だ。似顔絵といっても照らし合わせて描かれたものではなく、全てニースの勘と想像によるものだけど。

 ちなみに、そこに描かれていたのはオークもかくや、といった感じのオッサンの顔だ。脂でテカッていて、妙に臭そうに描かれている。

 そして、リアルである。

 そんなことを細かく説明すると、小鹿さんはワナワナと小さく震え出した。

「こっ、これは……誰ですって?」

「この学校に居る悪い魔法使いだって」

「悪い魔法使い……? これが……? こんなのが……?」

 ワナワナが次第にブルブルに変わり、小鹿おじかさんは生まれたての小鹿こじかみたいに手を震わせ始めた。

 そして――。

「フンッ!」

 メグシャッ、とB5のコピー用紙にも関わらず、えらく鈍い音を立てながら似顔絵が描かれた紙が握りつぶされた。

「あらら。ごめんなさい。なぜか紙がぐしゃぐしゃに」

 今潰したじゃん、とは言えない。そうなっているからね。

 小鹿さんは笑顔ではあるけど、その目は笑っていなかった。瞳のその奥の奥には、冷たくはあるが滾るような炎が潜んでいた。

「これはもう使い物にならないわね。捨ててもいいかしら?」

「あぁ、良いよ。これは絶対に必要ないものだからね」

 俺から紙の廃棄について許可が取れると、小鹿さんは似顔絵が描かれた紙を静かにカバンへしまった。

 すると、丁度見計らったように次の授業を担当する教師がやって来た。

 さて、ここから眠気との勝負だ。昨日は多く眠ったとはいっても、昼食後の授業とは睡魔の戦いになるのはどうあがいても避けられないのだから。

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