召喚成功……?4
神様という存在は、俺の中では主教的な意味合いが強い。それは、カトルやニースが居た世界でもそうらしいが、ただ一つ違うところは、二人の世界では神様という存在は本当に存在するそうだ。
いやいやいや。勘違いしてもらっては困るけど、俺が神様を見たことが無いだけで、俺が居るこの世界にも神様は本当に居るのかもしれない。ただ、神様が見えているような奴とは近づきたくないので、無意識にそういった類のものから目をそらしているのかもしれないけど。
神様と聞けば、厳しくも優しく、試練を与えるがそれは人が乗り越えられる試練しか与えない。といった存在を思い浮かべるが、カトルの表情を見ればそれは違うということが分かる。
「誇り高く高潔な聖上位騎士ニース。聖騎士ではなく聖上位騎士の歴史上、最年少記録を打ち破った才ある哀れな少女ニース。お前は、神が今まで人に対しどのような試練を与えたと思う?」
「苦肉を食い、それでも信心深く破句を唱えることなく、心がある限り聖句を唱え続ける。病の苦しみを与えるも、それを打ち破るだけの力を与える。世が混沌に満ち溢れ、人が人を殺める世界となっても、人が人であり続ける限り血を流すこともそれを治めることもできる。神は、人を人としてさらなる高みへ連れていくために、幸せと苦しみを与えた」
俺には難しすぎてよく分からなかったけど、カトルにとっては何の面白みもない、優等生らしい答えだったようで、頬杖なんかつきながらつまらなそうに聞いていた。
「神が与えた試練っていうのは、自分たちの暇つぶしの賭け事に丁度いい出来事ってことよ」
予想しない言葉に、ニースはもちろん、俺も目を見開いた。
「世界に疫病を流行らせてその地域の人間が何日で死滅するか賭けたり、啓示を行い戦争を勃発させ、どこが効率よく人殺しができるか賭けたり、信心深い者に達成がほぼ不可能な行為を強制し、何人が生き残るか賭けたりしているの。神様にとって、人間って生き物は自らの意思で動く、丁度いいおもちゃなの」
異世界の神様、ゲス過ぎてドン引きですわ……。
今まで犬の姿でしか見たことが無かったカトルだけど、今この時の表情は真剣なもので、嘘を言っている様には見えない。
「そっ、そんな訳があるか! 私は、試練を乗り越え神々から祝福の言葉と祈りを受け、聖上位騎士として存在している」
「聖上位騎士だって、
「
「その高潔な騎士団に殺されかけたくせに、いつまで目が曇ってんのよ」
馬鹿じゃない? と口にまでは出さなかったが、目が、態度がそう言っていた。
いや、それよりちょっと待ってよ。ニースが血だらけで魔法陣から出てきたのって、身内にやられたからなのか!?
「…………」
カトルが言っていることが本当なのか、身内の潔白を証明しようとすることなく、ニースは悔しそうに唇を噛んでいる。
「だから、私は神々に喧嘩を売った」
パチン、とカトルが指を鳴らすと、部屋全体の景色が一変し、一瞬で業火の中へ放り込まれたような映像が浮かび上がった。
「これが、二回目に神々の世界を焼いた時の
「真っ赤過ぎてちょっと見難いぞ……」
「んじゃ、ここから」
俺が見辛いというと、カトルはすぐに映像を切り替えてくれた。
今度は高高度に視界が変化し、そこからは地上のように見える雲海の上に作られた都市が真っ赤に染まっていくところが見えた。
「ふざけたことばかりやっている神々に対し、初めは私も真摯にお願いをした。私の未だ見ぬ弟子を含めて何代も何代も、それこそ末代まで。でもそれだけ頼んでも、神々は人間で遊ぶことを止めなかった。それを、未来から言霊を飛ばしてきた最後の弟子から聞いた私は、対抗策をとられる前に神々を滅ぼそうと決めた」
それがこの
「騎士団の方にも、何度も頼みに行った。一人より二人。二人より三人。大人数でお願いした方が、はるかに良いと思ったから。でも、それも無駄だった。
その騎士団長の名に記憶があるニースの方が小さく震えた。
よく見ると、今まで汗ひとつかいていなかったのにも関わらず、今のニースは体調が悪そうに顔色が悪く汗を大量にかいていた。
「私は、できる限りのことをやった! でも、受け入れられることは無かった! 汚らしい人もどきのせいで!」
言い終わると、カトルは歯を嚙みしめた。すると、次第に顔が赤くなり目からは涙があふれ始めていた。
それを見られまいとしてか、カトルは両手で顔を隠した。
言葉を閉じたカトルからニースに目をやると、こちらも意気消沈しているようで、縛られた状態で静かに床を見つめていた。
再び、視線をニースからカトルへ移す――と。
「ん?」
両手で顔を覆っているカトルだが、その手の下から見える口が大きく開いていた。
その口に手のひらを近づけると、大きく息を吐いていたようで、結構熱い息が漏れ出していた。
こいつ、あくびしてんじゃね?
「カトル――」
名前を呼びながら、強く閉じられている両手を掴んで顔から放した。
「アヘぇ……」
そこから出てきた顔は、瞳は上を向き7対3の割合で白目をむき、口からはだらしなく舌を垂らしていた。
これは、まごうことなきアヘ顔ですわ。
そのふざけた顔に怒りや呆れが湧いてくる前に、気が付くと俺はカトルの鼻に人差し指を置き、ブタ鼻を作っていた。
「ぶひぃ……」
アヘ顔に続き、付き合いが良いカトルは豚の鳴き声まで披露してくれた。なんて攻める女の子だろうか?
そして、今度は俺が顔を覆う番だった。
先ほどまで、人を神々のおもちゃから解き放つために、神々の世界を焼く――喧嘩を売ったというカッコイイ魔女だったはずなのに、今じゃ愉快な女の子じゃないか……!
「色々と辛いことがあると思うけど、この世界に居る神様はたぶん悪い奴らじゃないわ。私は自分の意思でこの世界に来て、ソーヤに助けてもらった。運がとても良い。貴女は、死ぬ寸前にソーヤに呼ばれてこの世界に来た。貴女もまた運が良い。拾った命だから、無駄にしてはダメよ」
自分の手で顔を覆っているのでカトルの顔が見えなかったけど、その声色から慈母のように優しい微笑みでニースに語り掛けているのが用意に想像できた。
「あと、ソーヤ。今まで言えなかったけど、私、ソーヤのお陰で生きていられたの。本当にありがとう」
そういえば、カトルと初めて会った時は、車に轢かれたと思ってしまったくらいボロボロだった。急いで動物病院へ連れていき、バイトで貯めた貯金を崩し、両親に頼んでお金を借りて治療費を捻出したのは強く記憶に残っていた。
お礼を言われるのに慣れていないので恥ずかしくて仕方がなかったけど、顔を見ずに居るのは失礼だと思ったので、勇気を出して顔を覆う手を外した。
「アヘぇ……」
そこには、アヘ顔をしたカトルが居た。
良い話が台無しだよ、全く!!
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