召喚成功……?2
「カトルが喋った……?」
「うん、喋るよー」
俺が驚いているのがそんなに面白いのか、カトルは可愛らしい女の子の声を出しながら
「姿を現しなさい、魔女め。
悔しそうなニースの声が耳に届いた。彼女の言っていることが本当なら、世界を三度も焼き尽くしたらしいので、それを追いかけている組織に属しているならこの声色の理由も分かる。
「え~、どうしよっかなぁ~」
くねくね、とカトルは可愛い声を出しながら酔っぱらっているかのように体を揺らした。あれが人の体であったなら、それはそれは可愛い仕草をしているんだろう。
しかし、犬だ。人の言葉を話していても、あれは犬だ。
そう言い聞かせないと、俺の精神が崩壊してしまう。それはもう、完膚なきまでに。
「気色の悪い……。そのままで死にたいのであれば良いでしょう。覚悟しろ……」
「ちょっと待ってよ。別に元の姿に戻らないなんて言ってないでしょ」
「まっ……」
まって、と声を出そうにも、カラカラに乾いた口から声が出ることは無く、カトルは犬の姿のまま気伸びをするように体を動かすと、一瞬で人の姿になった。
「これで、不意打ちではなくなり――」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
ニースの言葉を遮り、部屋に俺の絶叫が木霊した。もうダメだ。お終いだぁ……。
「なっ、何が起こったというのです!? 魔女! 一体、何をしたと!?」
「えぇっ!? してない、してないよっ!」
世界を三度も焼き、その世界の結構強そうな軍隊にも恐れられているような厄災の魔女と呼ばれていたカトルは、ニースから責められると焦ったような口調で弁解した。
「では、彼はなぜあんな精神崩壊を起こしているんですか!」
「わっ、分かんないよ! 本人に聞いて――」
カトルは、俺がなぜこんなにも呻き苦しんでいるのか理解してしまったようだ。
確かに、カトルが人の姿になったことは驚いたけど、魔法を齧っている身としてはそれはそれで嬉しかった。だって、これってめっちゃ魔法使いっぽいじゃん?
でも、俺が苦しんでいるのはそんなことじゃない。
俺は、迷い犬だったカトルを拾ってから、大変可愛がってきた。
それこそ、抱きかかえて一緒に寝るのはもちろんのこと、テレビを見ながら抱っこしては「おっぱい~」と称してカトルの胸を揉み、暇さえあればお尻の匂いを嗅いでいたんだ。
初めはめちゃくちゃ嫌がっていたけど、それも次第に諦めて最後になすがままになっていた。
やっと慣れてくれたんだ、と嬉しかったけど、あれが普通に諦めであったら?
いや、そもそも、これが現実だとしたら、俺は女の子を毎日毎日揉みしだいて、たまにお尻の匂いを嗅いでいたんだ。
「とんだ、ド変態じゃないか!」
恥ずかしさのあまり半分泣き叫んだような声になりながら、神に許しを請うように跪いた。
うわぁぁぁぁん。恥ずかしいよぉ。めっちゃ、人に見られちゃいけないことを人にやっていたんだよぉぉぉぉぉお!
「いっ、いやさ、私もあんまし気にしてないからさ。ソーヤもそこまで気にしないでもいいよ」
「ほっ、本当……?」
「まっ、まあ? 恥ずかしかったけど、泊めてもらっていたわけだし? た、たしょーはね!」
カトルは顔を真っ赤に染めながらも、俺のやって来た蛮行を許してくれた。知らぬこととはいえ、あれほどのことをやってきたというのに。
俺とカトルが顔を真っ赤にしながら話し合っていると、すぐ隣からわざとらしく咳をする音が聞こえた。
それは、剣を構えながらカトルを睨むニースだった。
「こっ、これで分かったでしょう。あれは、世界を滅ぼす魔女なのです!」
「魔女……!?」
今更ながらに、カトルが魔女だと聞かされるが、なかなか実感が湧かなかった。
「えぇ、魔女です。なにか、思い当たることがあるはずです」
この家に来てから、俺の周囲では世界を滅ぼされるどころか、事件や事故の類は起こっていない。細かくいえば、事故は起こっているのかもしれないけど、カトルが起こしたものでは絶対にないとおもう。
「いや、ぜんぜん?」
そう答えると、なぜかニースからめちゃくちゃ睨まれた。だって、本当に何も起きたことがないんだから、仕方がないじゃないか!
「厄災の魔女。正直に言いなさい。神の御許では嘘は自らを焼き尽くします」
俺の言うことが信じられないのか、ニースは敵?であるはずのカトルに問いかけた。
しかし、カトル自身も特に何もやっていないのか、顎に指をやり空を見た。
「別に……何もやってないけど?」
「うっ、嘘を吐きなさい」
あっけらかんとした様子で返すカトルに、ニースは次第に動揺し、しどろもどろになっていった。
「あっ、いや、でも……やったはやったな」
「ほっ、ほらみなさい! ソウヤくん、あれが魔女の正体です!」
一体、カトルは俺の知らないところで何をやったというのか?
もしかして、俺は世界を焼く手伝いをしてしまったのではないか!?
俺に戦慄走る!
「ソーヤの制服にアイロンかけたり、代わりにゴミを出しに行ったり、ご飯を作ったりしてあげた」
「神様、仏様、魔女カトル様ありがとうございますぅぅぅぅぅぅぅ!」
再び、土下座。今度は、ジャンピング土下座だから、ちょっと派手さが違うぜ!
「ちょっと、貴方。魔女にそんな雑用をやらせていたのですか!?」
何と恐ろしい、とニースは口の中で呟いた。うん、俺もビックリだわ。
「でも、何が一番怖いって、自分が作った記憶もないご飯を平気で食べたり、一人しか居ないはずの家で、明らかに自分以外の生活痕があっても気にすることなく平気で生活できるソーヤがすごく怖い」
ぐぅの音も出ねえ。妖精さんがやってくれているとか思い込もうとしていたけど、常識的に考えれば普通にやべぇな。
よく今まで無事で居たもんだ。いやまぁ、正体はカトルだったから良かったけどさ。
「くっ……」
それを聞いたニースは、頭痛を抑えるように頭を抱えていた。
「ソーヤ、そいつの近くに居ると危ないから、こっちに来て」
――と、今まで対峙する二人の内のニース側に立っていた俺に対し、カトルが初めて自分の方へ来るように言った。
「いっ、行ってはいけません!」
動こうともしていない俺に対し、ニースは半ば懇願するように言った。だってそうだろう。命の恩人が、守ろうとしていた者が、敵である魔女の元へ行ってしまいそうなのだから。
「ごめん。でも俺――」
「知ってた」
「はっ?」
「知っていたし、もう諦めた」
俺は恩人だったはずなのに、諦める早いなオイ。まぁ、引き留められたところで、カトルの方に行くんだけどさ。
理由は聞くなよ。
「それで、まだやるつもり?」
情けないことだけど、俺はカトルの後ろに隠れるように陣取る。カトルもそのつもりの様で、俺を背中に隠すように立ってくれている。
しかし、悲しいかな。カトルは小柄なので、俺の体は大きく晒されている。
「当たり前だ! たとえ、戦力が私一人であっても引くことなどありえない! 自らの死と引き換えに、貴様に一太刀浴びせ――」
「
「――ンハァァァァアーーー!」
カトルが小さく唱えると、ニースの足元から蔓のようなナニカ、あくまで蔓のようなナニカが出現して巻き付きだした。その蔓のようなナニカに全身を巻き付かれたニースは、どこぞの議員のような声を上げてその場に情けなく倒れた。
「クッ、殺せ……」
「早くね!?」
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