第5話
感動の再開の後は、アリル王子と会話をするため部屋――今度は納屋の二階ではなく、アリル王子も居るため比較的綺麗な村長の家――で会話をすることとなった。
ここには、俺とアリル王子とアインの三人だけだ。他の騎士は休憩をさせ、村民は各々の生活へと戻っていった。
「1週間ぶりくらいだな。俺が死んだあとはどうなった?」
こうして生き返る――時間を巻き戻ることに成功したからだろうか、アリル王子は自らの死に様についてさして気にした様子もなく聞いてくる。
アリル王子は俺の名を呼び魔王へ向かって剣を投げたところで、魔王からの攻撃により頭を潰されて死んだ。
最後の苦し紛れに投げた剣だったらしいが、有効ではないにしろ一太刀入れることが出来たので、魔王は強いが傷つけることができない存在ではない、というのが分かっただけ儲けもんだった。
「だけど、さすがは王子ってところだな。
俺の場合は、両親ともに信じてくれなかった。逆の立場でも俺は信じないと思うので、これは仕方がないことだと思う。
しかし、アリル王子は違った。王子であっても、自分のわがままで兵士を動かすことはできない。それに、アリル王子は王位継承権第4位なので、王子といえど発言権は低い。
「いや、俺は魔王のことを誰にも話していない」
王子からの発言に、俺は驚かされた。誰にも話していないのにも関わらず、どうやって兵士を連れて回っているのだろうか?
旅行といった場合にも兵士をつけることがあるが、それを鑑みても兵士の装備は物々しかった。
「あぁ、いや、乳母には話したな。そしたら、抱きしめられて頭を撫でられたよ。たぶん、怖い夢を見たんだと勘違いされた。でも、懐かしくて死んでしまいそうなくらい嬉しかったから、これはこれで良かったのかもしれない」
話したとはいっても、自分の世話係に、だったようだ。しかも、特にいらない情報までつけてくれた。
「あの兵士たちは、ここに居るアインの――ディスハイン卿の家の兵士だ。お前も知っての通り、アインは俺の騎士をしていた。早めに彼を引き抜くために、ディスハイン家へ乗り込んでアインを配下に組み込むと共に、ここへ来るための騎士を貸してもらったわけだ」
確かアインが武芸大会で準優勝し、アリル王子の目に留まるまでディスハイン家は王家と何らつながりが無い家だったはずだ。第4王子であっても、
しかし、早々に引き抜いたといっても、その武芸大会が魔王軍侵攻の2年か3年前だったはずなので、実質1年程度の短縮だろう。
「それで、お前はどうだった?」
「聞くなよ。無駄に終わった」
何を今さら、と肩をすくめていうと、王子もそれは分かっていたようで口角を上げて笑うにとどめた。
「戻って来てからは何を?」
「ずっと罠を作っていたよ」
「罠? 魔王を倒すためか?」
「まさか? クマを捕まえるためさ」
罠という言葉に、魔王討伐のためかとやや目を輝かせて言うアリル王子だが、申しわけないが罠はクマ専用だ。罠の用途を聞いたアリル王子が、少しだけ落胆したような顔になった。
こんな田舎で作ることができる罠で魔王を仕留めることができるのであれば、人類は滅亡への道を歩んでいないだろう。
「そうか。クマか。いや、そうだな。現れても居ない魔王に対して何もできないのであれば、家のために食料を確保したほうがいい」
すまなかった、と俺はアリル王子の言葉を別に気にしていなかったが、何故か謝られてしまった。
「――これには、食料を確保する他に、大人として認めてもらうための儀式でもあるんだ」
「大人に? この村には、そういった風習があるんだな」
「いや、村には無い。15歳になった時に、父から言われたんだ。『一人でクマを狩ることができれば、お前を一人前として認めてやる』ってね。これから俺は王子についてメイヴェンまで行く。少し早いけど、一足先に大人の儀式を行って大人になろうと思ってさ」
大人になる儀式を受けた15歳の時は、体格は今よりグッと良くなり、弓を引けば遠くまで飛ばすことができ、剣を握ればどんな物でも叩き切ることができた。
しかし、今の体は子供だ。体が出来上がっていないので、弓も剣も満足に扱えないだろう。
なので、前回は弓と剣を使ってクマを狩ったが、今回は罠を使って仕留めようと思う。
「なるほど。村を出るなら、大人になる儀式は受けなければいけないな」
「それに、クマを狩るのにはもう一つ理由がる。2年後に冷夏があるのは覚えているよな?」
冷夏は作物に大ダメージを与える災害のようなものなので、国を預かる王族でなくとも、こういった出来事は記憶に残る。
王子も、戻ってくる前の年月と出来事があれば忘れてしまっていてもおかしくないが、意外なことにこの冷夏のことを覚えていた。
「確かに、あったな。作物が育たず税収が減り、無理に収めた村は冬を越す食糧が無くなり飢餓が発生したと聞いた」
これも酷い話だった。魔王軍侵攻と共に食糧事情が悪化し、物を満足に食えない日々が死ぬまで続くのだが、魔王が襲ってきていない時でもこのような餓死は当たり前のようにある。
「人でそれなら、動物はどうだ? 木の実がならず、それを食料としてい草食動物が減る。そして、事件は年の暮れに起きた。食料を満足に確保できず冬眠に失敗したクマが、数頭並び立って村を襲ったんだ」
あの時の光景は、魔王の時と並び立つくらい記憶に残っている。俺も父と共に戦ったが、それでも犠牲者は何十人も出てしまった。もちろん、食われた奴も。
話を聞いたアリル王子とアインは、二人揃って消沈した。
「後でわかったことだけど、これには――クマが村を襲ったのには訳があった。酷い話だけど、村の悪ガキがクマに餌付けをしていたんだ。人に慣れたクマは餌をくれる人間を探して里に下りてきた、しかし、降りて見れば弱くて大きな獲物がたくさんいる」
あとは聞いた通り、と話を終えた。
原因を知っている時点で、餌付けをしていた悪ガキはどうなったか分かるだろう。
「だから、頭数を減らしておきたいと思ってね」
その為に、ここへ戻ってからずっと罠を作っていたんだ。
村を守るために。
これは、魔王から市民を守るためではないけど、それをすることで救える命もあるはずだ。
「よし分かった」
パシン、とアリル王子は両膝を手で叩くと共に勢いよく立ち上がった。
「話しぶりからすると、罠は必要分用意できたんだろ? なら話は早い。俺たちも手伝ってやるから、早く大人になる儀式を終わらせよう」
「ありがとう。実は、手伝ってもらえないか、と思っていたんだ」
「なら早く言え。お前のためのことを、俺が渋るとでも思ったのか?」
ニヤリ、と笑う王子に、俺もニヤリ、と笑うことでお礼を言った。
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