21
八十に及ぶ群れであった。そのゴブリンの軍勢は森の中を進軍している。
無数の足音に兎や鳥などは怯え姿を隠す。
森を抜けた。軍勢の目に豆粒ほどの大きさの村が映ると、数匹のゴブリンが雄叫びを上げた。
それが合図となった。森を抜けた順に村へと駆けていく。
自然と軍勢の陣形は三角形に、つまり村を三方向から覆うように広がっていく。森が後ろにある北側に三十、西と東側に二十五ずつとバランスの良い配分となる。
北の軍勢が進んでいくと、村から何かが飛び出した。それは軍勢へ近づいてくる。
ゴブリンの視力で捉えられる位置にまでそれは突進してきた。突進してくるものの正体、それは馬車を引いた馬であった。
馬は北の軍勢へ正面から突撃し、軍勢の中を右往左往と自由に動き回る。
ゴブリンが数匹、馬を追っかけ始めた。明らかに怪しい存在であるにも関わらず。
目の前の餌を必死に追いかけるがなかなか追いつかない。馬車を引いているとはいえ、相手は四足歩行の馬。二足歩行のゴブリンごときでは脚力で敵うはずがない。
腹減った早く食いたい、と本能的に思っていると、馬車の背面から二人の女性が姿を現した。
片方の女性が大きなツボを馬車から投げ捨てる。ツボは割れ、中に入っていた液体がゴブリンたちを濡らす。それはドロドロとしていた。
液体が気になりゴブリン達は歩みを止め、体に付着したのを匂い始めた。すると、もう片方の女性が一本の松明をゴブリンたちへ放り投げた。
落ちた松明の火で、地面に降り注いだ液体が燃えだす。その火は同じ液体で濡れたゴブリンたちへ広がっていく。
「ギャォォォォォ!」
火達磨になったゴブリンたちが悲痛の叫びを上げた。
運良く液体を逃れたゴブリンが地獄のようなその姿に怯えていると、頭を一本の矢が貫いた。
それは馬車から放たれたものであった。馬車の背に弓を構えた一人の男性がいる。
怯えて動きを止めているゴブリンを、弓兵は次から次へ射抜いていく。
大部分の馬に釣られなかったゴブリンの軍勢は村へと進行していく。
村が目と鼻の先まで近くになると、迎撃が開始された。何本もの矢が、村から軍勢へ飛ばされる。
嵐というより小雨のような矢の弾幕。そんなのにやられるのは、運の悪い者だけ。村に辿り着くまでの死者は三・四匹といったところ。
小雨を掻い潜り村に到着した。ゴブリン達は興奮を絶頂に高め、村の内部へ進もうとする。
すると、何匹かのゴブリンが地表から姿を突然消した。
それに残されたゴブリンたちが驚いていると、地の底から断末魔が鳴り響いてきた。消えた……いや、落ちたゴブリンたちによるものだ。ゴブリンは消えたのでなく、穴に落ちたのだ。
村が用意した迎撃トラップ。人が埋まるほどの穴を掘り、底に細く尖った木――スパイクを設置する。穴を布で覆い、その上に砂を振り撒けば落とし穴の完成。
ゴブリン達の行進速度が落ちる。落とし穴を警戒しているからだ。
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!」
そんなゴブリンたちに人間が一斉に攻めてきた。
一匹のゴブリンが戦闘態勢に入り、人間に飛びかかろうとする。すると、頭が地面にふっ飛ばされた。飛んできた石が頭に直撃したのだ。
投げたのは攻めてきた人間たちではない。それなら、ゴブリンは石の存在に事前に気づけた。
石が飛ばされたのは、民家の屋根からであった。そこには、子供がいた。傍らには山のように積まれた石がある。民家の屋根のあちこちに子供が投石兵として配置されているのだ。
石による援護を受けながら、人間が手に持った松明をゴブリンたちへ投げ込む。
動物とは本能的に火を恐れるもの。それはゴブリンとて例外ではない。飛ばされた火に無意識に体を強張らせてしまう。
そんな状態のゴブリンがまともに戦えるはずがなく、ろくな抵抗もできずに槍を持った人間たちに殺されていった。
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