12

 森を抜けると村が見えてきた。村の正面には何人もの人間が集まっている。

 集まっている者の一人が、森から抜け出したばかりのオットーと夜太郎の存在に気づく。


「お、あいつら戻っときたぞ!」


 男の大声による知らせによって、集まっていた者達の視線が夜太郎とオットーの二人に集中した。

 それとともに、集まった者の中から子供が二人、夜太郎の元へ駆けていった。チョモスとリーシャである。


「生きてたんだね」


 リーシャが夜太郎の足に抱きつき、戻ってきたことに安心した。チョモスは、目を少し赤くして夜太郎を見ている。


「ちゃんと妹を守れたんだな」


 片足にリーシャを絡ませながら、チョモスへ近づく。そして、チョモスの短髪頭に手を置いた。


「ちょっ! 頭を撫でるな。恥ずかしいって」


 言葉では拒んでいるが、体は受け入れていた。夜太郎が生きていることを直に感じることが出来て安心するからである。

 頭を撫でた後、夜太郎達は村への正面へと向かった。村の者達は笑顔や誇らしげな顔などで帰還を喜んでいる。


「ホ、ホ、ホ、無事に戻ってこられてなによりじゃのう」


 笑みを浮かべながら村長は言った。しかし、目は笑っていない。


「……のう、ヤタロウとオットー。魔物がいたというのは事実か?」


 村長が夜太郎の目を直視する。まるで、さっきまでの体験を読み取ろうとしているかのように。


「俺は魔物っていう存在が具体的には知らないから断言は出来ない。だが、あれは普通の動物ではなかったのは確かだ」

「あれは魔物であることは間違えねえよ。この目ではっきり見たしな」


 二人は、あれは魔物だったと伝えた。


「ふむ、間違いないのか。……人型のウサギ、行商の者から聞いたことがあるクレイジーラビットっとというやつかのう」


 子供達から事前に聞いていた情報と、行商人が昔話していた情報を照合した。

 魔物の生息が確定すると、さっきまで喜びのムードだった村人達の空気が重くなった。それだけ、魔物が付近に生息しているという情報は悲報だったのである。


「ヤタロウ!」


 村人達の中から一人の少女が飛び出し、夜太郎に抱きついた。正体は、今まで家にいたので夜太郎の帰還にすぐに気付けなかったイリスである。イリスは、夜太郎達が帰還したことで村が騒がしくなったことから、帰還したことに気が付いて飛び出してきたのである。


「ヤタロウ、ヤタロウ、生きているんだよね! ここにいるんだよね! 私のそばにいるんだよね!」


 夜太郎を力強く抱きしめる。存在が確かであることを感じるために。


「ああ、俺は生きているし、ここにいる。心配かけたな」

「生きているなら、ここにいるのならいいんだよ。それだけで十分。……それだけさえあれば」


 夜太郎の胸に顔を埋めながら涙声で言った。

 嬉しかった。夜太郎は自分が戻ってきたことをこれほどに喜んでもらって、純粋に嬉しかった。

 だが、ある疑問を抱く。これはいくらなんでも過剰ではないか? 同居しているとはいえ、出会って数週間程度の人間をこれほどまでに心配するものなのか?

 時間と想いは絶対に比例するわけではない。短期間でも大きな想いを築くことは可能だ。不安や恐怖を強く感じている時に出会った人に、恋愛感情を持ちやすくなるつり橋効果がそれに近いだろう。

 しかし、それでもこれはいささか過剰すぎるのではないか? と、夜太郎は心の隅でそう感じた。

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