05

 イリスの家の扉を村長が何度かノックすると、扉が開けられた。中から家庭的な料理の香りが漂ってくる。


「あ、村長。もうお話は住んだのですか?」

「うむ、なかなかに面白い男であった」


 村長は夜太郎の背中を押して、家の中に入れた。


「若い者同士、仲良く暮らすんじゃぞ。ホ、ホ、ホ」


 そう言い残して、自分の家へと戻っていった。


「気に入られたみたいだね」

「そうなのか?」

「うん、村長、機嫌良さそうだったもの」


 イリスは扉を締め、料理中の台所に戻る。


「手伝おうか?」

「ううん、一人で大丈夫。ご飯が出来るまで、適当にくつろいでて」


 ああ、と返事をして夜太郎はソファーに腰を下ろす。そして、暇なので部屋を観察し始める。

 部屋は一般的であった。ソファー、食事用の机と椅子、食器棚、寝室にベット、と。

 ソファーでくつろいでいると、体に疲労が一気に押し寄せてきた。

 死んだ後は、怒涛の展開に振り回され続けていた。それが、この家、この空気、でやっと落ち着いたのである。


「うん、こんなものかな」


 お玉で料理を小皿に移して味見をし、納得がいったので料理が完成した。

 食事用の机の上に、パンが積まれたバスケット、イリス特製の料理が入った鍋、食器が運ばれた。

 夜太郎とイリスは席に着く。


「では、いただきます」

「いただきます」


 イリスはお玉を使い、鍋の料理を食器へ注ぐ。料理の正体は、シチューであった。

 夜太郎はスプーンでシチューを掬い、口へと入れる。


「どう、美味しい?」


 期待の目でイリスは夜太郎を見つめた。


「うまい、想像以上にうまい。これなら、村のお姉さんキャラっていうのも、あながち間違いないのかもしれないな」

「む、それは一言余計か……な……」

「ん、どうした? 急に言葉を詰まらせて」


 夜太郎は再びシチューを口へと入れる。


「いや……だって……」


 再度シチューを口に入れる。美味しく懐かしい、と感じた。


「ヤタロウが泣いているから」


 食べるのを止め、手で頬を触れる。頬は一筋の涙によって濡れていた。


「あれ、本当だ。泣いてる」


『頑張ってシチュー作ったかいがありました。   が喜んでくれて良かったです』


 夜太郎の頭にモザイクの掛かった映像が流れる。


『大丈夫、私は大丈夫です。だから、   は心配しなくても良いのですよ』


 夜太郎にとって、懐かさと不安と怒りが湧いてくる言葉。


『殺してやる! 絶対にお前だけは殺してやる!』


 地に這いつくばり、激情に身を委ねる夜太郎の姿。


『絶対に殺して――』


「ヤタロウ!」


 イリスの呼び掛けに、夜太郎の意識は現実へと引き戻された。

 汗で服が濡れている。


「大丈夫? いきなり泣いたと思ったら、次は怒り顔になるなんて」

「ん、ああ大丈夫。ちょっと目眩がしただけだ」


 夜太郎は深呼吸をして気を落ち着かせる。


「……ふう、イリスの料理がうますぎたのが原因かもな」

「それなら、いいのだけど。なにか思うことがあるのなら言ってね。村のお姉ちゃんである私が、溢れる母性で癒やしてあげるから」

「その時はお願いするよ、お姉ちゃん」

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