第12話「あの子が初めて泣いた」

―――同日 午後4時 九州支社特設大会議室


「えー、以上の問題により、復旧の目処は立っておらず、現時点では少なくとも半年以上の遅れが見込まれています」


 大会議室に集まる、重役及び各チームの責任者。


 問題解決の為に集まった面々である。


 粗方の現状把握と摘出された問題が報告された時、俺のスマホに着信が入った。


 マナーモードにしているので回りから視線を浴びるという事は無かったが、ポケットのなかでブルッブル震えているのが多少隣に座っている人などにはわかるだろう。


 恭子からだろうか?


 5コール程で切れてしまった。


 俺が席を立ち、外へ出ようとした時、


「わ、渡辺くん。何処に行くのかね!まだ会議の途中だぞ!」


 恐らくは、俺を呼びつけた重役の一人だ。


「何処へって帰るんですよ」


 ザワザワと周りがざわめく。


「今回のトラブル、こうなる可能性は以前から現場は指摘していたはずです」


 早く電話を掛け直さなければ。


「それをあんたらはずっと放置していた」


 恭子になにかあったのかもしれない。


「ウチは既にフォロー体制に入りつつあります、問題点の洗い出しも修正立案も先ほど仰った事よりずっと先にいます」


 もう、1分経った。


「今回のトラブルは3ヶ月で目処を付けないと莫大な損害が出る。だから俺が直ぐにしなければならないのは部下たちに頭を下げ、休日返上で作業に入ってもらう事」


 出口はあそこだ。


「そして、あなた達お偉いさんに出来る事は、要求書にある100、200、1300の追加予算を認める事だけだ」


 ダッシュ!




『あ、の、おじ……さん。ゴメン、な、さい。ぐすっ、……おし、ごと中です、よね。ううっ、ごめんなさい。』


 恭子が泣いている。家に来てから初めて泣いてくれている。


「いやいや、俺あんまり役にたってないから。大丈夫だよ、どうした?」


『て、がみ……読み、ました……どう、がも見ました。ぐすっ、わた、し、わたし、居て、も、立っても、いられ、なくて、ご、めんなさい』


 笑う事を取り戻せた彼女、そしてあの日から今ようやく泣く事を取り戻すことが出来た。


 その事が俺にとっては爆発的な喜び。


「あちゃー、見ちゃったのか!恥ずかしいんだけどな」


『う、まく、言えない、です、けど。……わ、たしも、わたしも、おじさ、んにとっての、ぐすっ、はっ、ぴー、ば、るーんに、なっ、てみせま、すから。うっ、……い、ろんな、意味でっ!』


 そう言うと恭子は仕事の邪魔をしていると思い込んでいるのか、泣きながら謝り倒して電話を切った。




 これからどうしよう。今更会議室にも戻れんしなぁ。




 あれ?ひょっとして、今から帰ればギリギリ―――

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