第11話「届け、ハッピーバルーン」―――恭子side
―――同日 午後3時 都華子の部屋
「どうしたんですか?とっちゃん、そわそわしているみたいですけど?」
「いやー、別になんもないよぅ、えへへ」
恭子は都華子のじれったく何かを待っている様子が気になっている。
何かあるのだろうか?と恭子が暫く観察していると、都華子の両手に握られているスマホの振動に目が行く。
そしてその瞬間、都華子はおもむろにスマホカバーを開け、大きく目を開いてその画面に映る何かを見ていた。
「キタ!やった!でかしたオジサマ!」
都華子の喜びように「ど、どうしたのですか」と驚く恭子。
「行くよ、キョウ!」
え、え、と戸惑ったが、恭子は都華子に手を取られ相葉家を出た。
都華子は何も喋らずに歩いていく。しかしその手にはしっかりと恭子の手が握られていた。
昨日も今のように何も告げられぬまま市民プールに行く事になったのもあり、今日もなにかのサプライズなのだろうかと思う恭子であったが、進んで行く先が自分の家であったので疑問は更に膨らんだ。
「あの、とっちゃん?一体……」
恭子がそう言うと、都華子はパッと手を離し歩みを止める。
そして都華子はカバンからスマホとメモ帳をペンを取り出した後に、画面に映るアドレスのような文字列をメモ張に写していた。
都華子が写し間違いがないか何度も見直した後、恭子はそのメモ紙を渡される。
「私の役目は此処まで。後はオジサマにまかせた」
恭子は都華子に自分の住むマンションの方へ背中を押された。
―――同日 午後3時30分 恭子の部屋
一体全体何がなんだかわからないまま、恭子は自室に戻り机に向かう。
都華子に手渡されたものがインターネットのURLであるという知識は持っていたのでそれが関係しているのだろうとPCの前まで進む。
すると、恭子の目に映る一つの包み。
それが純一からのプレゼントである事はすぐに理解した。
「お財布。とっても高級なブランド。おじさんだってボロボロのお財布を使っているのに」
純一からの心遣いにたまらない想いが駆け巡ったが、恭子の疑念は更に広がる。
ならば、このアドレスは一体なになのだろう?
恭子はPCを立ち上げネット接続を始める為マウスを操作している時に、モニター横に置いてある便箋に気が付いた。
(手紙?おじさんから?)
※ ※ ※ ※ ※ ※
新しい家族へ
誕生日おめでとう恭子。
―――――膨らまそう シアワセのカタチ
先ずはごめん、今日の誕生日一緒に祝えなくて。
―――――萎んだままじゃ いられないよ♪
後、もう一つゴメンな、勝手に部屋に入っちゃって。
―――――泣きそうなことも ウジウジしてたことも
でもせっかく部屋に鍵を付けたのに使ってない恭子の所為でもあるな。
―――――今になれば 笑って「あんな日もあった」♪
なんか照れるなこういうの。
―――――静寂の彼方 見上げた場所にあるもの
まぁ、なんだ、日頃面向かっては言いにくいから手紙に書きます。
―――――俯いたままの日々じゃ それは見つからない♪
恭子が家に来てから、俺たちが一緒に住むようになってから、
―――――なにも言えない我慢って 偉い事なの?
もう、4ヶ月とちょっと経つのかな?
―――――他人が決めるものじゃない 幸せの定義♪
恭子に色々あって、俺なんかで大丈夫だろうか?
―――――複雑なことだらけで こんがらがってしまって
正直最初は、不安だった。
―――――「嫌いなの」って言う 本当はとても欲しいもの♪
でも最近は恭子も笑顔が多くなって、今は少し自信がついた。
―――――膨らまそう 両手いっぱいまで
恭子が笑うたび、俺はとても幸せになるんだ。
―――――ユメとかアイとかも 全部詰め込んで♪
恭子を引き取ったのも最初は師匠への恩が大きかったからだけど、
―――――あの時の「ゴメン」も 一緒に並べて
今は違う。なんて言えばいいか難しいけれど、
―――――浮かべて ハッピーデイズ ほら笑顔♪
恭子が俺の家族だから、家族の笑顔を守りたいから、
―――――きっとできるはず 踏み出さなくちゃ
俺は頑張れる。
―――――何気ない事 「ありがとう」って言えること♪
うーん、なんか違うな。
―――――照れくさいけど ここにある キモチ
多分、感謝しなければいけないのは俺の方だ。
―――――大空を飛び越えて 届けよう♪
今までは気付かなかったけど、一人でいるのはやっぱり寂しかった。
―――――急にイジワル してみたくなって
恭子が来てくれたから、寂しくなくなった。
―――――あなたの好意に ツンと知らんぷり♪
だから、頑張れる。ごめんよく解らんこと書いてるよな。
―――――わがままだけど
とにかくだ!恭子が悲しい顔してると俺も悲しくなるし、
―――――浮いたセリフとか 今はまだニガテ♪
恭子が笑うと、俺も嬉しくなる。
―――――急に飛び出して 逃げ出しちゃったときも
恭子が居ないと寂しくなるし、
―――――知ってたよ すぐに見つけてくれるって♪
恭子が居ると、すごく安心する。
―――――イマがどんなに遠くに離れていても
だから、頑張れる。そういうこと。
―――――いつかはまた元通り 共に歩むべき道へ♪
前、恭子の叔母さんから電話があったよな。
―――――膨らまそう まだまだ 大きくなるよ
実はその時恭子の前の学校の友達にあったんだ。
―――――はち切れるなんて ありはしないよ♪
恭子が踊りが大好きだった事、俺はずっと忘れていたけど、
―――――溢れる想い 溢さずにそっと
その友達から聞いて、思い出した。
―――――最後に入れた ”ありのまま”
後、その時叔母さんからも恭子と何があったか聞いて、
―――――きっとできるはず 踏み出さなくちゃ
恭子が大好きな踊りを止めてしまった理由がわかった。
―――――何気ない事 「ありがとう」って言えること♪
だから恭子がまた、大好きな踊りが出来る自分を取り戻せるよう、
―――――照れくさいけど ここにある キモチ
―――――大空を飛び越えて 届けよう♪
もう、見ちゃったか、まだ見てないかわからないけど、
―――――膨らまそう シアワセのカタチ
ぶっちゃけ、めっちゃ恥ずかしいけど、
―――――萎んだままじゃ いられないよ♪
上手な恭子からみれば、笑っちゃうかもしれないけど、
―――――あの時の「ゴメン」も 一緒に並べて
へたっぴでごめんだけどさ、
―――――浮かべて もっとハッピー その笑顔♪
それでも、
―――――きっとできるはず 踏み出さなくちゃ
それでも、どんな言葉よりも、
―――――何気ない事 「ありがとう」って言えること♪
いくつも言葉を並べるよりも、
―――――照れくさいけど ここにある キモチ
一生懸命踊れば、伝わると思ったから。
―――――大空を飛び越えて 届けよう♪
ここは恭子が望めば何でも出来る場所だよ。
―――――膨らまそう 両手いっぱいまで
これから、色んなことがあると思う。
―――――ユメとかアイとかも 全部詰め込んで♪
時には喧嘩する事もあると思う。
―――――あの時の「ゴメン」も 一緒に並べて
それでも、少しずつでも、ちょっとずつでも、乗り越えていけば、
―――――浮かべて ずっとハッピー おめでとう♪
きっと、ずっと笑っていられる日が来るから。
―――――きっとできるはず 踏み出さなくちゃ
俺に出来る事なんてたかが知れてるけどさ、
―――――何気ない事 「ありがとう」って言えること♪
そんな日を迎える為に、俺は君にとっての、
―――――照れくさいけど ここにある キモチ
恭子にとってのハッピーバルーンになってみせるよ。
―――――あの空の彼方まで~ 届けよう♪
勿論、家族的な意味で(笑)
※ ※ ※ ※ ※ ※
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