第10話 告白~come out~
おにいちゃんは、ボクとそっくり。でも、ボクはおにいちゃんにになかったところがたくさんある。
ボクはおんなのこになった。みんな、おんなのこがほしかったんだって。だから、かみのけものばしておんなのこみたいになって、ふくもなにもかも、はなしかたもきをつけて、おんなのこになった。
でも、ときどきね『おにいちゃんみたいにあそびたいな…』というとおかあさんが『あなたはおんなのこなんだから』『もっとおんなのこらしくしなさい』『おにいちゃんとあなたはちがうんだから』といっておこられた。あるときはおとこのこのトイレにはいって、トイレをしようとしたら『おんなのこは、たってなんかしない。トイレもすわってしなさい』とおこられた。おにいちゃんとボクはおなじからだのかたちをしているから、してもいいのかなとおもってやっただけなんだよ?なにがいけなかったのかな?そのあと、おかあさんにたくさんおこられて、たたかれた。いまでもおぼえているよ。
がっこうも、おんなのこのふくをきてランドセルもせおっていった。がくねんがあがっていくにつれて、まわりはふしぎそうに『ユウヒちゃんってほんとうにおんなのこなの?』ときかれたりするようになるくらい、ボクはだんだんおおきくなって、ふくがにあわなくなった。せものびたり、かぜをひいたときみたいにのどがいたくなってこえがひくくなったりするようになってしまった。
おかあさんに『これいじょうおおきくなるのはダメよ』といわれて、ごはんをたべさせてもらえないひもあった。『こんなこえのおんなのこなんていないよ、だからあなたはしゃべっちゃダメ』そんなことをいわれて、ボクははなさなくなった。きらわれたくなかったし、みすてられたくなかったから。そうやっていわれても、おかあさんはやさしくボクのからだにさわってくるようになった。よくわからなかったから、いわれるがまま、されるがままだった。おとうさんもおなじで、おかあさんとおなじこととはぎゃくのことをするようになった。きらわれるのがこわくて、ボクはがまんしていた。あれだけボクのからだのかたちをいやがっていたのに、それをつかうとくるしそうなかおをしながら、ボクのからだにさわってきたり、だきしめてきたりした。よごれるのがいやだった、だから、すぐにおふろにはいっていた。きらわれないなら、すきでいてくれるならそれでよかった。
そんなことをくりかえしていても、おとうさんもおかあさんもボクにおんなのこでいてほしかったみたいだ。ちゃんとふたりのいうことをまもってると、とくにおかあさんはやさしかった。おにいちゃんといっしょにいるときとおなじように、おにいちゃんとおなじようにやさしくしてくれるから。
おんなのこのボクにみんなはやさしくしてくれた、でもボクのからだはおんなのこのからだとちがうとがっこうでならった。ボクは、おとこのこなんだってしった。おにいちゃんとおなじなんだとしった。ボクはまちがえていなかった。すこしうれしかった。
おにいちゃんは、とてもやさしい。おとうさん・おかあさんよりやさしい。ときどきボクといれかわってくれて、ほんもののおとこのこみたいにすごさせてくれた。バレたときはかばってくれた。だけど、おとうさんもおかあさんもボクにおこるときみたいに、おにいちゃんにはきつくおこることはみたことがなかった。
―だって、おにいちゃんは、あたまもよくてやさしくて…みんなからたくさんきたいされていたんだから。ボクはいらないこ、おんなのこだもん。そうやってしていればみんなやさしくしてくれるんだもん。
あるとき、ボクはおうちからにげたくなってにげだした。おにいちゃんがボクのふりをして、かばってくれようとしていたけど…おにいちゃんとおかあさんは、からだをさわりあっていた。ボクにしかしてくれなかった、とくべつなことだとしんじていたのに…みてしまった。かなしくなった、ボクはにげだした。そのあとは、おとうさんともさわりあっていた。そのようすをボクはかくれてながめていた。さいしょはおにいちゃんは、いやがっていた。さいごになると、ふたりともしあわせそうなかおをしていた…すごくわからないきもちになって、なきそうで、おこりたくなってしまった。
なんねんかして、ふたりはりこんした。ボクはおにいちゃんとくらすようになった。くらしていくためのおかねは、おとうさんがまいつきおくってくれていた。おにいちゃんとくらしたじかんはたのしかった、あたまのいいおにいちゃんは、だいがくってところにいってたくさんべんきょうしていた。おにいちゃんとすごしながら、おにいちゃんからきくはなしはおもしろおかしくてたのしかった。
またなんねんかして、あるひにおにいちゃんは『ボクたちのおとうと…いもうとだよ』といって、ちいさいこをつれてきた。ボクは、ロリータとなまえをつけた。おにいちゃんにかしてもらったほんにでてきた、かわいいおんなのこのなまえだったから。ロリータはかわいかった。おんなのこのふくもにあっていたし、からだもちいさかった。ただ、ボクたちとおなじからだでおとこのこだった…
むかしにおとうさんとおかあさんがしてくれたように、ボクは、ロリータとじかんをすごした。おんなのこのふくをきさせて、はなしかたも、なにもかもおんなのこにした。いうことをきかなかったときはおしおきをした。まったくおなじことをして、おんなのこにしていった。おなじようにことばをかけて、おなじようにからだにさわって…おなじようなかおをして、させて…そんなことをしていた。
おにいちゃんは、ロリータのせんせいだった。べんきょうをおしえるせんせいだった。おにいちゃんは、ロリータにやさしかった。
そこまでは、そのひがくるまではしあわせだったんだ、やさしかったんだ…ほんとうにしあわせだったんだ…
…あれはね、わざとじゃなかったんだ。ボクは、ただロリータにいいこになってほしかっただけなんだ。たくさんさからったから、たくさんわるいことをしたから、ボクは、おこっておしおきをしただけなんだ。そしたら…うごかなくなった、ボクのかわいいロリータ…はなしかけても、ゆすってもおきなかった。
それからのことは…おぼえてない、きがついたらここにずっといたんだ。なんでだろうね、からだがおおきくなって、おとこのこになって…だんだんかおも、からだもかわっていって…もう12ねんもここにいるんだ。
…ねえ、いまのおはなし…むかしばなし…おもしろかったでしょ?せんせいなら、わらいながらきいてくれるよね?せんせいにだったらはなせるよ。うまれてからボクはこんなふうだったんだって。これはね、つくったおはなしじゃないんだよ?すごいよね、ほんとうのおはなしなんだよ。しんじてくれる?こんどはおにいちゃんのおはなしもしていい?ボクね、おにいちゃんのことだいすきなんだ。
ちゃんときいてくれてありがとうね、せんせい。
こんどはいつあえるかな?
ボクね、せんせいのことだいすきなんだ。おにいちゃんににてるからさ。いつもおわかれするとき、すごくさみしいんだ。
せんせいは、ボクだけのせんせいじゃないからいそがしいもんね。さみしいけど、がまんしなきゃ。だから…
また、ウサギのぬいぐるみみせてあげるね。
じゃあ、またね。バイバイ。
たのしみにまってるからね。
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