第2話 違和感

―1週間前 警察署にて。


「おう、おはようさん」


「おはようございます…もう、お昼ですけど」


「お前、若いのに元気ねえなあ…ちゃんと朝勃ちしてるか?」


「一応警察署なんだから、そういうのやめてください…てか、若いんだからちゃんとしてますよ」


「あー、やっぱりお前は弄り甲斐があるわ…何この素直さ…飽きないわぁ…」


「で、何で僕のこと呼び出したんですか?」


「まあ、今から説明するわ」


「はあ…」


「相変わらず相槌のレパートリーも少ねえなあ、んなんだから女にモテないんだよ。鳥井は顔は悪くねえのによ。まあ、本題に入らせてくれ…」


「先輩が毎回話を脱線させてるんでしょ?だから、前振りが長いんですって」


「時にはユーモアだって必要だろ」


「わからなくもないですが」


「だろ?ところで、来週は空いてるか?」


「一応…カウンセリングの予定もないですし」


「じゃあ、デートしようぜ!」


「はあ!?」


「だ・か・らデートしようぜって。どーせ暇だろ?クライアントも来ねえんだから。少しでいいから、付き合ってくんねえ?」


「アラサー男をデートに誘うとか、連勤で頭がおかしくなられたんですか?」


「俺様はいつだって真剣だ。目上の人に“頭がおかしくなった”はねえだろ」


「だって実際…」


頭がおかしい、という言葉は再度飲み込んだ。にしてもデートに誘うのは明らかにおかしいし、面倒事や厄介事を頼む時の声色の作り方をしているのが伝わってくる。


「今日の晩飯奢ってやるからさ…」


「嫌です。どうせ、面倒事か厄介事でしょ?わかり切ってますよ、先輩のことなんて。声の作り方といい、表情でバレバレです」


「仕方ないな…デザートも付けてやるよ!それで付き合わないってのはナシだぞ」


「やっぱり嫌です…」


「ふうん…先輩に盾突くなんて、いい度胸だ。じゃあ、こう言えばいいか?“臨床心理士 鳥井太陽に正式に捜査協力を求めたい”ってか?」


「そんな公文書持ってる訳…」


「バァカ!これが目に入らぬか!」


「…っえ?」


令状だった。しかも、本物の…しかし、半信半疑だ。


「夜なべして、上司に頭下げて書いてもらったんだ。…俺様にしては不本意だが、しっかりと頭を下げたんだぞ。それを無駄にしろというお前の首を絞めてやりたいく…」


「…先輩さすがに公文書偽造はまずくないですか?先輩が頭を下げるなんて想像つかない…早く謝りに行けば、許してもらえますよ…だから、早く…」


あの俺様気質で、見下すような発言をする先輩が他人…ましてやお上様に頭を下げるなんてまずありえない。いくら捜査のためだからといっても、頭を下げる様なんて全く想像できない。だから、公文書偽造を俺は疑ってしまう。


「はっ、公文書偽造?公務員がする訳ねえだろう、正真正銘本物だ…いくら俺様でも、それくらいの法律は遵守するぞ」


「よく見せてください」


「大事な紙切れだ、丁寧に扱えよ…」


じっくりと令状を読む。確かに、正規に提出されたものだ。印鑑も、証明印もしっかりとしたものだ…


「先輩…皆川刑事…」


「ん?何だ?」


「疑って大変失礼致しました。公文書偽造だなんて、ひどいこと言ってしまって…」


「まあ…俺の仕事のハチャメチャ振りを知ってるからそう言ったんだろ。無理もない、別に気にしてねえよ。お前の実力を買って、こっちは頼んでるんだ。だから付き合ってほしいんだよ、そのデートに」


「…じゃあ、付き合います」


「おうよ、ありがとな」


「ただし、ちゃんと晩ご飯にデザート付きでお願いしますよ」


「万年金欠だって知ってるだろ?」


「でも、デートなんでしょ?」


「…まあな」


「じゃあ、誘った方が払うのが筋ですよね?」


「…わかった、何でも好きなもの奢ってやるから」


「なら結構お腹空かせておくので、焼肉でお願いします。たくさん食べるの、楽しみにしてますね…あ、ステーキでもいいかな?」


「あああ!好きなだけ何でも食えよぉ…はあ…鳥井に口で負ける日が来るなんて…」


この時までは、気分も浮かれていて晩ご飯も食べる気満々だったのだが…後々その気分が削がれるなんて思いもよらなかった。

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