突然?

その日は突然だった。


彼女が教室へ来なかった。


前日


「明日も君のクラスに行くから」


と、言っていた彼女が初めて自らの言葉を裏切った

僕は、まぁ、どれだけ毎日来てたからってさすがに疲れることもあるだろうし、内心振り回され続けていたので自分の自由な時間ができ安堵の気持ちもあったが、その時はてきとうに解釈をして、あまり詮索しないようにした。


が、その日から彼女は学校に来なくなった

少しの心配。

彼女と同じクラスの女子に聞いても風邪で休みらしいが何かモヤモヤと嫌な感情が心の片隅で動くような感じでどうにも落ち着かなかった。



彼女が休み始めて1週間位たったある日。

彼女は学校へ来た。僕は唖然として何も言えなかった。

それは、あんなに元気で話していた彼女の体が想定以上に小さく弱く痩せているように見えたから。

嫌な感じが当たってしまった時のあのどうしようもない気持ちが僕の周りをモヤモヤと立ち込め、彼女に一体何があったのか、悩みがあるなら友達として相談に乗るし、体調が悪いなら保健室に一緒に行けばいいと思い。とにかく彼女がどうしてこんな力ない姿なのか知りたくて、気付いたら声を掛けていた。


「綾芽さん!」


下駄箱までの階段、下校時間がズレているのもあって人は少ない、だから少し大きな声で呼んでみた。


返事は


…ない。


今、目の前に居る女の子は本当にあの綾芽唯さんなのだろうか?と疑問が浮かぶ

だが予想とは裏腹に彼女は綾芽唯と書かれたロッカーに靴を入れる

やはり綾芽唯さんだ、彼女に間違えはない、なのに何だろう彼女の周りの空気はまるで別人のよう。


もう一度さっきより大きな声でトライ


「あ、綾芽唯さん!だ、大丈夫、ですか?」


なぜかとても変な話し方になってしまっているけれど今はそんな事どうだっていい。


するとやっと彼女はきずいて


「あ、はい、だ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます。」


とだけ一言


あとは何も言わずに去ってしまった

彼女は僕だと気付かなかった

まるで最初から赤の他人みたいな素振りで





それからというものの、彼女はよく休むようになった。

理由は風邪や体調不良。

僕の中で彼女が


(病気なのでは?)


という考えもでたが


(なら、何故たまに学校に来るのか)


というところでひっかかる。

先生や、クラスメイトに聞いてもよく分からない事が多い


そんな事を考えながら人気の無くなった廊下を歩いていた時

ふと、顔を上げるとそこにはいつの間にか彼女が立っていた。表情も変えずただ真っ直ぐに彼女の目は僕を映していた。


急なことだったので僕はびっくりして

「あ、あや、綾芽さん!?ど、どうしたの?」

と、かなり、上ずった声で訪ねてしまった。すると彼女は静かに口を開いて力なく話始めた

「すみません、あの日、教室、行けなくて………。」


「え、あ、あぁ覚えてたんだ、全然大丈夫だよ、体調悪かったんだからしょうがないよ。」


彼女は、あの日、僕に気づいていないんだと思っていた。

だが、彼女の口からは僕が思ってなかった答えが飛んできた。てっきり僕は、久しぶりに彼女に会ったあの日の事で、もう友達をやめようと言う別れ話をするのだと思っていたから

「綾芽さん、体、大丈夫?心配したよ。もしかして病気とか?」


とりあえず、僕は驚きを隠しつつ普段のようにして、今一番気になっていたことをぶつけた。

彼女は少し間を置いて

「いえ、そんなんじゃないんで。御心配ありがとうございます。」


と、とても丁寧な口調で淡々と答えた。

どれだけ崩すのが嫌だった彼女にしてもさすがにここまで丁寧だとこっちも調子がくるう。

じゃあ、何が彼女をこんなにも変えてしまったのだろう?

疑問は深まるばかりだ。だから思い切って

「ねぇ、綾芽さん、何か相談あれば聞くよ?」


と言ってみた、でも


「いえ、何も無いんで、ごめんなさい」

と逆に謝って去って行ってしまった。

それ以来彼女と話すことはなくなった。


彼女に避けられるようになってから

もう1ヶ月が経とうとしていた。











数日後


僕は学校の廊下で突然倒れた。

何かに躓いた理由でもなく。

ただ意識がフラッと無くなって気絶する様に倒れた。

周りにいた何人かのクラスメイトが先生を呼ぶ声を聞いて先生が僕の名前を何度も呼んでいた。その事を最後に僕の意識は途絶えた。

やっと目を覚ました時には、白い天井とたくさんの管に繋がれていた。その管たちの先には点滴のパックと規則正しく僕が生きている事を伝えてくれる機械。まだ意識は朦朧としていて、ここが病院だと認識するのに少し時間が必要だった。

すると、ガラガラと部屋のドアが開く音が聞こえ、担当の看護師が来た。看護師は、僕の意識が戻っている事を確認するためいくつか質問をした後医師を連れてくると言い残しまた、出ていった。

また、ガラガラと言う音とともに入ってきたのは歳のいったほりの深い医師だった。その医師は入ってくるなり備え付けの椅子に座りこみ真剣な眼差しでこちらを伺ってきた、少しの間の後その医師から告げられたのは余命4ヵ月というあまりにも急で過酷な宣告だった。

僕は、急すぎて言葉も出ずただただ、自分が死ぬと言う現実を悪い冗談なのだと否定することしか出来なかった

病名は[慢性心不全]僕の年代では、発症の確率が極めて低い症例だった。

医師は


「この進行具合だと、大分前に発症して少しずつ進行したんでしょう。」


という結論だった。

そもそも、心不全は、心臓の左心室、右心室のどちらかの機能が低下する病気だ。

それによって血圧が低下する。

そこで僕は、数日前からの体の異変、急な目眩や倦怠感を思い出したが、気づいたところでもう遅かった。


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