女学生交流編
第18話 上位組への兆し
エプローシアとの修行にも目処がつき、大きな荷物を持って宿を後にするクラウス一行。
今日は新たな旅立ちの日だ……後ろ向きに……
半ば放心状態でギルドカードを眺めたいた。
クラウス・18448 位
Lv 31・無職・到達階数 : 10 所持金:0
STR : 14(+4) CON : 14 DEX : 14 AGI : 14 INT : 14 WIS : 14
魔術(火 : Lv4 水 : Lv1 土:Lv1 風:Lv2 光 : Lv4 陰:Lv4 闇 : Lv4 聖:Lv3)
剣術:Lv49(二刀:Lv102 両手:Lv52)弓術 : Lv72
チェルノ・(契約:魔法生物)
Lv 26・液体金属・到達階数 : 10
STR : 0 CON : 6 DEX : 16 AGI : 24 INT : 20 WIS : 19
魔術(雷:Lv2 闇:Lv5 聖:Lv3)
俺は修行の合間に、火炎砲弾フレイムショットと光属性の星光線スターレイ、
それに、闇と陰の混合魔法の魔力吸収エナジードレインの三つを習得することができた。
Lv4までなら俺は魔術を習得できると言ってもいいと思う。
チェルノも解毒治療キュアポイズンをいつの間にか覚えていた。
遊んでたわけではないようだ。
違う、問題はそこじゃないんだ……なんと……所持金が0。
何度目をこすり、見直しても変わらない事実が目の前にあった。
手に持っている金貨1枚が俺の全財産だ。
残りの金貨199枚は一体どこに消えたというのだ……
やはり人間というのは計画的に行動しないといけないらしい。
というか冒険者たちはどうやって生きてんだ?
魔物は金持ってないしな。
さすがに無収入ではなさそうなんだが……
『レイブンズ先生に聞いてみたら?』
またか……またあいつに頼らねばならんのか……
だが俺のなけなしのプライドがその行為を許しはしない。
第一……カッコ悪い……
これからどうしようかと悩みながら歩いていると、
いきなり通路の脇から「ドンッ」っという音と共に、男が頭から滑り込んできた。
「斥候なんていらねえって言ってんだろ! しつけえぞ!」
倒れている男の足先の方に目をやると、
屈強そうな体格の男がそう叫んでいた。
「すっ、すまない……お、俺も少し焦りすぎた……」
俺の足元の男がそう言うと、
服を叩きながら起き上がろうとしていた。
少し先にいた屈強そうな男は「ちっ」という捨てゼリフを残して立ち去る。
何かのトラブルだろうか。
俺は目の前で起き上がる男に、手を貸してやることにした。
「大丈夫か?」
「ハハハ……すまない、格好の悪いところを見られてしまったようだ」
言動や仕草を見るからに、随分と腰の低そうな男だ。
くりっくりの癖毛に無精髭。
ボロボロのレアーアーマーからは歴戦の勇者というより、むしろ敗残兵を彷彿させる出立だ。
見せるも何も、最初から格好悪いぞ。
「そ、そうだ。君は斥候せっこうを必要としてないかい?」
俺に振り向むと、目を輝かせながらそう聞いてくる。
斥候かあ……というか斥候って何だ?
早速目の前の男に聞いてみた。
聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥だ。
男は嫌がることもなく、詳しく俺に教えてくれた。
気のいいやつらしい。
スカウトとも呼ばれる斥候の主な活動は、
ダンジョンの地形や敵などに関する情報の収集に始まり、
戦闘、セーフティエリアの確保、食事の用意や配分までこなす何でも屋だ。
……むちゃくちゃすごくないかそれ……つまりダンジョンに詳しいのか。
「友達になってください」
思わず俺はそう口にしていた。
こいつさえいれば十一層の階段も探す必要はない。
探索で金の手に入れ方も知っているし、何より……危険を回避できる。
俺の現状を伝え、どうすればいいのか聞き出すつもりだ。
「自己紹介がまだだったね。俺の名はウィルフレッド。ウィルでいい……君は?」
「俺はクラウスだ。よろしく、ウィル」
俺たちはそう言い合うとお互いに腕を出し握手する。
ウィルは最近、固定で組んでいたパーティーを解散したそうだ。
よくあることらしい。
どんなに最高のパーティーを結成しようとも、
深層に進むにつれ、無限に難易度を上げていくダンジョン。
いずれは階層が進まなくなり、身内どうしの罵り合いが始まる。
「お前が弱いせいだ」「違うやつとなら問題なかった」という感じだろうか。
だが……俺にとっては都合が良かった。
ウィルに俺の状況を説明すると「十層? 丁度いい、気晴らしに付き合うよ」と言われた。
深層のギスギスした雰囲気に嫌気が差していたらしい。
階層が進まないのと出番も少ない斥候は、そう言った状況では槍玉に上げられるのだ。
ー
日が暮れる前に準備を済ませて、十層へと向かった俺たち。
ウィルに「武器はどうした?」と聞かれたのでチェルノに剣を二本出してもらう。
「チェルノ、ファルシオンを二本頼む」
この幅広の片刃剣はエプローシアから貰った「加速の加護」が付いた剣だ。
彼女のセカンドウエポンだったが、クラウスに使って欲しいと言われた。
これ以上借りを作ってどうするんだとは思ったが、
すぐにでも力の欲しい俺にとっては彼女に頼るしか道はない。
人間って一人では生きていけないんだなと、つくづく感じる……
ウィルは俺の剣の出し方を見て、
「魔法かい? 見たこともない魔法だ……」
こいつとは長い付き合いになりそうなので種明かししておいた。
『ボクはチェルノ。よろしくウィル』
口を大きく開けたまま固まっているウィル。
安心しろ、俺の唯一無二の秘密だから。
ここから先は評価が下がっていくだけ……悲しい。
——ザァァーー……
十層へと降り立った事を伝えてくる激しい雨音。
前を歩くウィルがレインコートを着るのを見て、
俺もここへ赴く前に購入しておいた黒いレインコートを着込む。
前を歩く男は俺の方に振り向くと、
「パーティーではお互いの役割を分担することはとても重要になってくる。クラウスには俺の指示に従ってもうが……良いかな?」
フードからそう言い放つ男の顔を覗くと、眉毛がキリッってなってた。
実は以外と……男前なんじゃないの?
思わず「兄貴!」と言いたくなってしまう。
「お前って……以外と頼もしい男だったんだな」
こういうと大概の奴は舞い上がるもんだがウィルは平然としていた。
斥候の真骨頂はこれからということか。
激しい雨の中、まるで道を知っているかのようにウィルは突き進んでいく。
敵を全く警戒してない。
ウィルにとってあのグロき者は敵じゃないということか?
まあ俺も多分……いや全然、余裕だけどね!
しばらく歩いていると聞こえてくる音があった。
——ズーンズズーン……
どうやらやっとお出ましのようだ。
経験値どもめ、ボコボコにしてやんよ。
「階段前に三匹いるようだ。クラウスは……何匹相手にできる?」
無論三匹だと答えてもいいが……やっぱ二匹にしとこうかな?
一匹って答えると後が怖い……
二匹でお願いしますと言っておいた。
「参考程度に聞いておくがウィルは何匹まで行けるんだ?」
この先どう言った状況に陥るかも分からんからな。
仲間の戦力は把握しておいたほうが良いだろう。
「俺か? ……一匹も倒せないさ」
「は? じゃあどうやるんだ」
「簡単なことだ。三匹を分ければいい」
誘導して分けるのか。
いずれにしろウィルに任せるしかない。
お手並み拝見ってやつだな。
そう言うとウィルはいきなり石をグロき者に投げつける。
一匹がブチ切れてこっちにやってきた。
——ズーンズーンズーン!
逃げるウィル。
「クラウスぅ! あとは任せたぁ!」
語尾の音量が下がっていく声が聞こえた。
……適当じゃねえか!
まあ……あいつが死ぬ前に取り残された二匹を狩りに行くか。
チェルノに魔法をもらい一気に接近する。
だが全方位に眼があるグロき者二体は、俺より先に攻撃してくる。
……あれ?
相手の動きが死ぬほど遅い。
加速の加護が二枚付与されているとしても……遅い。
二刀の熟練が100を超え「使い手」を名乗れるとしてもだ。
やっと俺に届く触手をいなしてカウンターを当てる。
二匹いるのにまだ次が来ない。
仕方がないのでそこら中でウヨウヨしてる触手を切り離す。
悲鳴を上げるのに忙しいのかまだ次が来ない。
早く攻撃してこいという意味を込め、目玉の方をぐっさり刺してみた。
動かなくなった。
……よええ!
てか目玉を思いっきり刺せば死ぬのか……知らなかった……
だがそうなると……ウィルを迎えに行くのが面倒くさい。
最初から三匹相手にしてればよかったと後悔した。
ー
「はぁはぁ」
相当走っていたのか息を切らせているウィル……グロき者は足が速いからな。
追いかけるのが面倒くさいなと思っていたら、
ウィルが帰ってきたので過ぎ様にそいつは処理しておいた。
「悪い。五匹ぐらい行けそうだったわ」
「はぁはぁ……頼もしいね。だがもう見る事はないさ」
何言ってんの?
入口通らないで入れるトイレがあるなら教えて欲しいわ。
いや……緊急時とかね。
突っ込むのも面倒くさいのでサクサク十一層へ進むことにした。
新たなステージへと降り立った時には雨は止み、
俺たちの視界に映る、見渡す限りの広大な……沼地。
なんかね、もうそれだけで……
『嫌な予感がする……ヒルとか』
だから……いうなって……
だが……今回は違った。
なんせウィルがいるのだ。
先導者がいるということの重大さを、身にしみて感じていた。
人の上に立つカリスマ性の様なものをウィルから感じ取っていたクラウス。
リーダーって……かっこいいね!
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