第9話 マリエッテ中編
これから一週間後に弓で八層を攻略する羽目になってしまった。
少なくとも現状の弓では一切通用しない。
だが唯一期待の持てる物を手にしていた二人は、急いで街へと戻る。
「どうすんだよチェルノ」
『まずは師匠のとこに行こうよ』
そういや師匠の家聞いてなかったな。
とりあえず出会いの場とも言える俺たちの修練場へと向かうことにした。
さすがに四六時中いるわけじゃない。
他に行くところがないか道中相談しながら歩いていると……。
『あれ、いたよ? よかった師匠が暇で』
「おい」
余計なことを言うチェルノを戒めながら挨拶をした。
まずはチェルノに弓になってもらい、事情を説明してみた。
「巨人の弓? 寧むしろこいつは弩弓バリスタと言っても差し支えなさそうだ」
投石機などの城門兵器の一種ということか。
そこまでは大きくはないと思うが。
『この弓をどうしても使えなくちゃいけないんだ』
「まだ使えもせん武器に頼るとは情けない。お前さんには謙虚さが足らんようだな」
俺じゃねえ・・そこは全力で否定したい。
まじまじとその弩弓バリスタを眺めながら長い息を吐いている。
「少なくとも腕力が20という所か・・あとはまあ限界まで弓術に纏まつわる物でも集めてみろ」
「今、素で11。師匠の指輪で16ですよ? それにしては全く引けなかったすよ」
「ああ悪い。あの指輪はな……ギルドカードにだけ+5になる代物だ。実戦では何の効果も齎もたらさん」
は? どうゆうことだ?
怒りを必死に抑えながらも問い詰めたらあっさりと白状した。
俺が剣術を覚えたせいで調子に乗るんじゃないかと、詐欺指輪をもたせたらしい。
速攻で外した。
叩き返してやる……と思ったが、俺のためにしてくれた事だと思うとできなかった。
ま、今まで実力だったって事で……いいか。
そういやギルドカード確認してなかったな。
そう思うとポケットからカードを取り出した。
クラウス・28878 位
Lv 22・無職・到達階数 : 9 所持金:1,015,000
STR : 12 CON : 12 DEX : 12(+1) AGI : 12 INT : 12 WIS : 12
魔術(火 : Lv1 水 : Lv1 土:Lv1 光 : Lv1 闇 : Lv2 聖:Lv3)
剣術:Lv37(二刀:Lv27 両手:Lv52)弓術 : Lv15
チェルノ・(契約:魔法生物)
Lv 19・液体金属・到達階数 : 9
STR : 0 CON : 6 DEX : 15 AGI : 23 INT : 18 WIS : 18
魔術(雷:Lv2 闇:Lv2 聖:Lv3)
前回からレベルが4増えてSTRが12になってるのはいいが、指輪のせいで弱体化してる……。
あと九層まで降りたのに順位がほとんど変わってなかった。
まあこれは分かる。
九層まで戦闘する事なく行けるからね……。
はあ、半年以上やってんのになあ。
「陽のLv6属性魔法である『腕力強化ストレングス』を唱えることができればあるいは……」
6だと……少なくとも一週間じゃ無理だろう。
「あとは強化のついた装飾品とかかの。露店街でも行ってこい」
ダンジョンで冒険者が手に入れたものを直接販売している広場のことだ。
安くて高価なものも沢山あるが素人には騙されることも多く敷居が高い。
時間が惜しいと言わんばかりのチェルノが、
『さっそく行ってみよう! 誰かに買われちゃうよ!』
なんでそんなにテンションが高いのかわからん。
俺は既に胃が痛いのだが……。
——
バルトホルトの街には、とある広場があった。
ひと昔前に魔族に侵攻されたらしい。
当時の被害の爪痕は酷かったらしく、その場所は最後まで復興が遅れたそうだ。
今その広場は冒険者達に開放されて露店街となっていた。
近くまで来るとかなりの人で賑わっていた。
何十もある露天の周りを、購入目的や冷やかし共で歩くのもままならない。
さっそく近場に店を構える男の商品を覗いてみようとしたら、
『STRを上げたいんだが良いものを置いてないか?』
聞いたほうが早いと言わんばかりのチェルノ。
もう黙って任せよう……。
「昨日まで腕力の指輪パワーリングを置いてたが今はない。向かいの奴が確か腕力の手袋パワーグローブを売っているのを見た」
『これからあんたに聞きたい。名前を教えてくれるか?』
「話す短剣とは珍しいな。これだけいる露天商の中、なぜ俺を信用する?」
こいつ・・チェルノの正体をこの距離で気づかれるとは思ってなかった。
商品越しだぞ? 相当強いとみたほうがいいな。
『キミが置いている商品の数さ。ずいぶん場所を取っている割に少ない。売り急いでるほうが信用できるのは常識でしょ』
そうなのか?
というか俺は何してたらいいのでしょう。
「騙してる暇もないってことか・・・俺の名はレイブンズ。あんたは?」
「俺はクラウス。こっちの剣がチェルノだ」
『よろしくレイブンズ。さっそくなんだけどバリスタを扱えるようになりたい。なんでもいいから解ることを教えて欲しいんだ』
何言ってんだこいつ? と言わんばかりの顔をしていた。
そりゃまあ攻城兵器持って戦うやつなんていないからな。
俺たちは真剣だと言わんばかりの顔で返しておいた。
レイブンズは気の良いやつらしく、親切に教えてくれた。
とりあえず手に入りやすい物を回って集めてこいと言われたので集めてきた。
まずさっきの腕力の手袋と指輪だ。
二つで金貨40枚だ……高すぎないか?
近くの商店ギルドで金貨70枚ほどを引き出しておいた。
そろそろダンジョンで稼ぎが欲しいな。
続いて魔術書だ。
Lv6陽の魔術書『腕力強化ストレングス』と。風のLv2魔術書『射撃加護シューティング』。
あとLv5闇の魔術書『狂人ルナティック』の三冊を購入。
率直なところ、Lv6は覚えることができないと思う。
Lv5はチェルノが欲しがった。
ストレングスは安かったがルナティックが金貨5枚て……金が……。
他の能力が下がる代わりに腕力が上がるらしい・・まさにどんな手を使ってもという今にぴったりだった。
あと変わったものを見つけた。
力の象徴とかいう被り物だ。
かぶるとモヒカンという髪型になる……絶対嫌だった。
だがストレングスの魔法が使えるようになるらしい。
眉唾ものだが、チェルノがどうしても欲しいというので買った。
めちゃくちゃ安かったのでどうでもいい。
買い物を済ませてレイブンズのところへ報告に行った。
「なんとか集まったようだな。教えてやったんだ・・最後にこれを買っていけ」
そう言うと赤い液体の入ったポーションを指差す。
一時的に腕力が強化される効果があるそうだ。
よくしてくれたお礼にもなるし何本か買って帰るか。
『分かった。全部もらうよ』
なっ……五本で銀貨1枚だからえっと……。
というか持って帰れるのか?
「200本あるぞ。いいのか?」
『足りないぐらいだよ。あと、レイブンズは普段何層辺りで狩りをしてるのか聞いてもいいかな』
「95層前後の宝物庫が俺の狩場だ・・誰にも言うなよ?」
独占で狩りでもしてるってことか。
それって言ってしまってもいいのだろうか。
信用してくれてる証と受け取っておこう。
『今度バリスタで手伝ってあげるよ』
「期待している」
心底面白いと言わんばかりのレイブンズは笑い声をあげていた。
背水の陣って奴だな。
もう俺たちに使えるって道以外に残されてはいない。
当初の予定どうり露店街で買い物を済ませることができた。
しかしポーション200本は重い……。
レイブンズはどうやって運んだんだ?
俺が非力なのか……。
とにかく一度修行の場へ戻って作戦会議だ。
——
まだいる師匠に帰ってきた挨拶をする。
ほんと暇だなこの人。
とにかくまずは役割分担だな。
俺の方はできる奴からってことだと、
Lv2風の魔法の『射撃加護シューティング』。
あとできれば、
Lv6陽の魔術書『腕力強化ストレングス』。
これは無理だと思うが一応予定に入れておく。
チェルノは、
Lv2聖の魔道書『武器祝福付与ブレスウエポン』。
これもできれば、
Lv5闇の魔術書『狂人ルナティック』。
チェルノも闇属性には自信があるらしい。
あと買ってきた装備をしておくか。
長いこと使ってきた革の手袋を脱いで、腕力の指輪と手袋をする。
……お?
腕の筋肉がいきなり引き締まった感じがする。
俺強ぇ。
革の手袋今までありがとう。
「ちょっと引いてみますか」
『はい、モヒメット』
モヒメット言うな。
本気でこれを被らないといけないのか……すごく嫌。
だが周りの期待に応えるべく被ってみた。
会場は割れんばかりの大爆笑だった。
いやあこれは本当に恥ずかしいよ?
宴会とかならいいけど、ダンジョンでこんな奴いたら「ふざけてるのかな?」って思うもの。
『一応魔法使え・・ストレングス・・ぷっ』
どんだけ面白いのよ俺の状態。
魔法使えばいいんでしょ?
「ストレングス」
魔法のアイテムは誰でも扱えるように作ってあるのかもしれない。
最初は魔力を兜に込めるということに違和感があったが何の問題もなかった。
両腕から肩にかけて、一廻り太くなってると思う。
中のインナーがピッチピチだった。
両腕に力こぶを作って見せた。
なぜかまた笑われた。
魔法かかったらもうモヒメットいらないんじゃないの?
と思いすぐに脱いだら、なぜかチェルノが残念そうにしている……。
魔法の効果は感じたままだった。
じゃあ魔法使うときだけでいいのか……なんとかなるか?
「チェルノ、今度こそバリスタ」
手を差し出す。
『はあい』
心底残念そうだった。
モヒカンの毛を切ったらどうかな?
あ、ダメだハゲになる。
「よーし次は矢も頼む……てあれ?」
矢を射ったらチェルノ飛んでいくよね?
バリスタ用の矢なんて売ってないぞ?
普通の矢でもいいのかな。
『大丈夫だよ。ある程度離れたら維持できなくなって消える。他次元で持ってられないからね』
なるほどなあ。
何を言ってるのか全然解らんわ。
「なるほどなあ。つまり大丈夫ってことだな」
『そ』
なんか会話が成立した。
羽根がなく、やたら長い金属の矢を出すチェルノ。
これ本当に飛ぶのかな。
んじゃま・・今度こそ引いてみることにしますか。
チェルノバリスタを目の前で立て掛け、一度深呼吸をした。
正直ここで引けないと厳しい。
あと残ってるのがLv5のチェルノの魔法と、ポーションだけだ。
まあ引けないなら消耗品を使わないと使えない武器ってことになるだけだが。
手に持ってる矢を弦にゆっくりかけた。
なるようになれだ、思いっきり引っ張ってみた。
「フウゥンヌウ!」
おお! 何とか腕を伸ばすことができたが……ちょっとプルプルしてる俺の腕。
やばい、とりあえず撃ってしまおう。
——ギュウゥン!!
フエの付いた風船みたいな音かちょっと怖い。
そしてなぜ当たった音がしないのか・・何故ならば当たってないから。
『たぶん矢の形が悪いのかも』
矢の羽根は伊達じゃないってことだな。
だがこれで現状は把握できた。
残りの時間でどこまで詰めれるかが勝負所となりそうだった。
少しのあいだ話し合った後に俺たちは一度宿に戻ることにした。
ポーション200個も持ち歩いても仕方ないしね。
『酒場にはいかないでね』
「行くかよ。バッタリ会うことにもなればたまったもんじゃない」
やれやれ。
落ち着いて飯も食えないってやつだな。
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