第3話 始めての友達
翌朝宿屋のベッドの上で目が覚めた。
内心森の中だったらどうしようかと周りを見渡してしまった。
恐怖心なんだろうか。
なんにせよあのウサギ野郎をボコボコにしないと前に進めない。
宿の朝食を食べながら一人作戦会議。
まずは一層で無事に帰る方法だ。
とにかく広いのでマッピングなんて出来そうになかった。
あとはウサギに近づく手段だ。
まあこれは遠距離攻撃に頼るしかないと思う。
つまりは情報収集しろってことだな。
まずは道具屋に寄ってみた。
あっさりと迷子を防ぐ方法が解決した。
入ってきた階段に向けるとベルが鳴る『
先に教えてほしかった……無駄に臨死体験する羽目になったじゃないか。
続いて武器屋に寄った。
ここでは、当初から考えていた弓を購入しよう。
どうせ
ついでに矢を500本と、革の手袋を購入した。
矢が100本で銀貨一枚は高いのか安いのかさっぱり分からんな。
手袋は命中率が上がり、手を痛めることもなくなる。代わりに手が臭くなるかも。
ついでに魔道書を売っている店も寄った。
一段階の初心者魔法ぐらいは覚えたい。
便利そうなのをチョイスした。
魔道書『
要は火をつけるだけ、水が出るだけ、眩しいだけの三種類だ。
一段階だとしょぼいのしかなかった。
あと初級二段階だけど欲しい奴があった。
魔道書『
気合いで読み込めばなんとかなるって。
まだダンジョンには向かわない。
中で練習してもいいが、人に見られると恥ずかしい。
街の近くにある森へ出かけ、さっそくロングボウを使って見る。
案の定前に飛ばない、というか矢が足元に落っこちる。
これはかなり重症だ……そしてかなりショックだ。
何度も練習を繰り返して使えるようになるしかない。
教えてくれる人もいないのだ。いっそのこと型にハマらない弓手を目指す。
とりあえず矢が尽きるまで矢を放とう。
腕が上がらなくなるまでやった。
上がらなくなったら、近場で魔術書を読んで過ごした。
『ファイア』と『ウォーター』は覚えた。次は『ライト』だ。
必死になった。俺に出来ることなどこれぐらいなもんだ。
何日も修行の日々を過ごした。
矢がなんとか前に飛ぶようになった頃。
数日前から気配のようなものを感じていた。
多分魔物だ。草葉の陰からこっち見てる。
まあ襲ってこないし放っておいた。
どうせ倒すことも出来んし。
あくる日もこっちの様子を伺ってる魔物。
見ててなにが面白いのかわからない。
矢がボロボロになってきてたので今日はイメージトレーニングだ。
矢のないままの弓を構え、引いたまま狙いを定める……。
——" なにしてるの? "
うおお!さすがにびっくりした。
しゃべれるのかよ。
だがここで慌てると格好がつかない。
俺はロングボウを引いたまま、
「弓の練習だよ……見りゃわかるだろ」
と平静を装い答えてみせた。
しばらくするとまた声が聞こえた。
—— " じゃあ君は弱いんだ "
ほっとけよ!
はっきり言われるとさすがに腹が立った。
だが『Lv1』が虚勢を張ったところでどうしようもない。
魔物の言うことは正しかった。
「ああ、矢が飛ばないんだからな。今まで一回も敵を倒したことがない」
口に出して気がついた。まさか俺を襲うつもりなのだろうか。
余計なこと言ってしまった自分に嫌気がさす。
だが殺されるぐらいなら死ぬ気で逃げる。
—— " ボクも一度も倒したことがないんだ。同じだね "
嬉しそうにそう言い返してきた。この魔物も相当弱いらしい。
弱い、というくだらない共通点を見出す一人と一匹。
こいつも俺と同じで寂しいのかも知れない。
襲われることは無さそうだと安心してしまったのか、
俺は先ほどまで忘れていた空腹感が顔を出してきた。
肩の力が抜けた俺は、引いていた弓をそばに置き、
リュックから、今朝買ってきたサンドイッチと魔術書を取り出した。
つまり松明が持てない。
そうなってくるとこの『ライト』って魔法は必須になってくる。
これが覚えられないと詰むのだ。
そりゃ必死にもなる。
飯を食いながら必死に魔術書を読んでいる俺に、
—— " ねえねえ、今度はなにしてるの? "
やかましいやつだな。
俺なんぞに興味を持って何がしたいのだろう。
だが話し相手などのいない俺にはこいつの気持ちもわかる。
邪険にするのも気がひけた。
そう思うと素直に答えてみせた。
「魔道書を読んでんだよ。……魔法が使えないからな」
初心者魔法を覚えた程度では使えるとはとても言えない。
今はまだ使えないだけだ。
これから覚える。
そのために時間を割いてるのだ。
—— " 魔法も使えないの? ボクそんな弱い人初めてみたよ "
おまえも弱いだろ!
だが言われっぱなしも癪なので反撃する。
その声のする方へと睨みを利かせる。
さらに拒絶の意思を表現するため背を向けてやった。ざまみろ。
気を取り直し魔術書を読むことにした。
しばらく訪れる静寂。
あいつは帰ったのだろう。
魔術書に没頭し始めた俺の後ろから、
タムタムと言う奇妙な足音が近づいてきていた。
姿を見せる気になったらしい。
振り向くとそこには、ツヤのある人型の魔物が立っていた。
いや問題はそこでは無い。
見た目は金属だった。おそらく液体金属だ。
見たことはもちろん聞いたこともない生物だった。
その液体金属は俺の前でゆっくりと体の表面を
どういう原理で動いているのか気にはなる。
おそらく高位の魔物ではないだろうか。
しばらく様子を見ている俺に、
—— " ボクを殺さないの? "
え?
いやそれは俺が言いたい。
だいたいお前の方から来たんじゃないか。
それ以前に俺は、お前を倒せる気が全くしない。
—— " 人間はボクを見ると襲ってくるのにどうして? "
「まあそりゃ多分……俺の方が弱いからだな」
胸を張って言ってみた。
情けないが弱さには自信があったのだ。
しばらく黙っていると唐突にこの液体金属は、
—— " お願い、ボクの友達になって "
などどほざいてきたのだった。
初めての友達が金属とか笑えない……。
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