第2話 前途多難



 連合国が有する大陸に唯一・・存在する巨大ダンジョン「ベルトホルト地下迷宮」。

 なぜ一つしかないのか……答えは簡単。

 その地下迷宮は……北の大陸全土にまで広がるほどに巨大なためだった。


 当然、その最下層到達を達成した名誉となれば計り知れない。

 世界中から我こそはと、強者たちがこぞって集まるも、

 その偉業を成し遂げるものは未だ現れてはいなかった……


 そのためか、少し離れた場所に挑戦者たちで賑わう『ベルトホルトの街』があった。

 彼はまず、そこに立ち寄って拠点を構え、装備を整えようと考えた。


 それなりの収益の見込める場所には連合から衛兵が派遣されている。

 彼等たちに、まずは宿泊できる場所を聞くことにした。

 宿ではお金を預けることが出来るそうだ。

 金貨は意外と重たい。

 10枚だけ手元に置いて後は預けることにした。


 宿泊できる場所を確保した後、商店街に向かうことにする。

 大きめのリュックと大きめのサイズの服。


 あと食料を一週間分見繕ってもらった。

 中を見た。パン、チョコチップ、ビスケット、あと色々。

 水筒には水がたっぷり……かなり重たい。

 多分三日で食う。


 最後に武器屋に寄った。

 両手剣を装備しようと思ったら、持ち上がらなかった。

 それ以前に片手には松明たいまつを持たないといけないらしい……買わされた。

 消火器を買わされたような気分だ。

 武器は短剣ショートソードにした。

 なぜかというと、長い剣だと手が『クリッ』ってなって切れない。試させてもらった。

 ど素人は長剣は扱えないらしい。


 すでに日が傾いてきた頃だが、構わずにダンジョンの入り口に向かう。

 入り口付近にダンジョンギルドの登録場があるらしい。

 連合国が維持管理しているギルドだ。


「はぁはぁ……名はクラウス、登録を頼む」


 歩くだけでもしんどい……

 家名は……今のところ明記する必要はない。

 俺がヘマをすれば、家族が辱められる可能性もあるからな。


「職業をお聞きしても?」


「……無職」


 そう俺は無職だ。

 専門職が無いという意味だ……まあ仕事も無いんだが。


「そっ、そうか。がんばれよ」


 ギルド職員は気の毒そうに、そう切り返してきた。

 心配するな、これからだ。


 すぐそばに建ててある掲示板を見た。

 一番上には『ランカーズ上位 100』と明記してあった。

 ほー、100位圏内は掲示板に載るのか。

 もちろん見るのは栄えある 1位 の奴から。


 1位 到達階数 : 368 階 アドルフ・J・トンプソン

 2位 到達階数 : 368 階 カーティス・ミラー

 3位 到達階数 : 368 階 マルケータ・ルビオラ

 4位 到達階数 : 325 階 ジークフリート・D・コーネリアス

 ・

 ・

 ・

 上位三人はパーティーぽいな。

 てか、300層とか行くまで何日かかるん?


「クラウスさん? ギルドカードは無くさないようにお願いします」


 よそ見してたらいつの間にか出来てたようだ。

 拙つたなく登録を済ませて、ギルドカードを受け取る。

 そこには、



 クラウス・28353 位

 Lv 1・無職・到達階数 : 0 所持金:1,900,000

 STR : 8 CON : 8 DEX : 8 AGI : 8 INT : 8 WIS : 8



 宿で預けた金がモロに記載されているな……いいのか?

 ……ん?

 おいちょっと待て。十万位はどうした?。

 ……完全にあの神にはめられた!

 くそ……言い返してやりたいが何処にいるのか知らんし。

 ……許せん。

 今度会ったら只じゃおかないからな。


 怒りは収まらんが帰る訳にはいかない。

 とりあえず突入だ。

 ……まあ死んでも構わん。


 入り口に着くと、出てくる人がちらほらいた。

 そんな時間か。

 まあ様子見だし構わず行く。

 両手に持つ、松明と短剣を握る手に力が入る。

 内心ドキドキだった。

 ボコボコにされたらどうしよう。

 ちゃんと情報収集しておくべきだったか。


 と思ってたら0階層はまだ魔物は出ないらしい。

 かなり広大な丸いフロアに、松明で灯された大きな柱が6つ。

 その柱にはくり貫かれた穴が空いていて、螺旋階段のようなものが見えていた。

 そこから一階層に降りていくらしい。

 適当に一番近い階段を下った。


 かなりぐるぐる回された気がする。相当な距離だ。

 あたりを見回すと、これまた広大なフロアだった。

 森のような雰囲気、だが光源がある。

 等間隔に巨大な幹がそびえ、発光している天井を支えているようだった。

 幹の枝から伸びる葉の合間をぬって差し込む光は、さながら森そのものだ。


 暗……くはないな、あの雑貨屋の親父め。

 松明必要ないじゃないか。

 誰も見てないだろうな……恥ずかしい。

 まだ火を付けてなくて良かった。


 しばらく歩いていると何かが飛び出してきた。

 思わず後ずさる。一瞬パニックになるが、その元凶を視界に収めるとすぐに構え直した。

 うさぎだ……だがでかい。一般的なそれの二倍はあった。

 向こうもこちらに気づくと……ものすごい勢いで逃げていった。


 え? 襲ってこないのか。

 緊張して損した……。

 まあでもそれなら、なんとかやっていけそうだな。


 しばらくその獲物を探し回った。

 見つけることは出来るのだが……一匹も捉えることができなかった。

 野生の動物に至近距離まで近づく手段など持ち合わせてはいないのだ。

 でかい鹿もいたが、あれは無理そうなので諦めた。


 武器を調達し直そうと階段に向かった。

 だが……階段は見つからなかった……というより何処かわからなかった。

 情けないことなんだが……俺は迷子になった。

 あまりにも広いせいか誰とも会わない。

 寝てても襲われないのが唯一の救いだが、食料が一週間分しかないのだ。

 節約しながら生活した。

 ようやく見つけたのは十日目のことだった。

 収穫は、この森にも昼夜があったという情報だけだ。


 激しい痛みを伴う全身を引きずりながらも、なんとか宿に着いた。

 とりあえずベッドで寝たかった。

 なぜか2日分の料金を取られた。

 初日の分だ。使ってもいないのに……


 多分筋肉痛だなこの痛みは。

 とりあえずベッドに寝転んだ。

 微睡みの中、考えるのはダンジョンのこと……


 本当に死ぬかと思った。

 なんの成果もないのにただただ歩いて……

 最後には食べるものもなくなって死を覚悟した。


 もう行くのやめようかな。

 さすがに心が折れたわ。

 涙が止まらんな……

 所詮俺には無理ってことで……ん?


 そう考えて眠ろうとした時……


 確かに……確かに聞こえたぞ。

 女の声だ。

 聞いたことのない綺麗な声だった。




  『 —— お願い……あきらめないで……がんばって —— 』




 ……やべえ。

 ムチャクチャやる気出てきたぁぁぁ!

 あのウサギ野郎、全滅させてやる。


 待ってて。

 俺が……俺が君を必ず迎えに行くから。


 クラウスは、まだ居もしない女性にそう誓いを立てるとゆっくりと目を閉じた。


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