側仕えはこいねがう
露木佐保
本編
序章 季節はめぐり、再び
一、側仕えは剣を捧ぐ
深き緑の美しき国、
雨が多く緑豊かなこの国は、国土の広さこそさほどないが、資源豊富な恵まれた国だった。
その豊かさを支えていると言われているのが、国土の最北に位置する霊山、
水を豊富に
ゆえに香稜山は古くから人々に
洸国の都、
国政の中枢を担う
香稜神宮は特別な神社だ。国としても重要度の高いこの神社は、平素、
だが、そんな香稜神宮も、年に一度だけ民に開かれる日がある。年が明けての三日目。新年を祝う祭の日がそれだ。
剣術の試合を
今日がまさにその開かれた日だ。
境内には異様な熱気がこもり、人々は興奮に包まれている。
そして今、私がいる場所がその中心。剣術奉納試合の舞台だった。
時刻は正午を少し前にした頃。短めの影が私の足から伸びている。そんな私には数多くの視線が向けられていた。
上気した子どもの視線や、屈強な男の鋭い視線、若者の
私はそれらを堂々と受け止めながらも、視線に
まもなく始まろうとしているのは決勝戦。私はその出場者だ。
軽く体をほぐしながら、向かい側を見据えれば、そこには同じように体をほぐしている青年がいた。
自分より少しだけ年上の青年。青年からは
実はここ数年、決勝の顔ぶれはずっと変わっていない。私と青年。だが勝者は常に青年だった。
決して私の腕が悪いわけではない――はずだ。敗因は大抵、冷静さを失って弱点をさらけ出してしまうことにあった。この青年を前にすると、これまでの私はどうしても冷静でいられなかったから。
けれど今年は違う。今年の私に――もう弱点はない。
因縁の五度目の対決。
実力は互角。どちらに勝利がもたらされるかはやってみるまでわからない。
試合の進行を任されている
刀を交換して不正がないことを確認し、それを返すと、相手の男がにやりと笑った。
「今年こそ――ちゃんと見ろ、よ?」
毎年繰り返しかけられてきた嘲りの言葉。これまではすぐに血を上らせてしまっていた。
だが、もうこんな安い挑発には乗らない。私は青年の目をしっかりと見返して、笑って見せた。
私はこの試合にすべてをかけよう。そしてこの試合を
謝罪、感謝、信頼、敬愛、そして――誓いを。
決められた立ち位置に戻りながら
試合を前にした興奮が少しだけ落ち着く。
今、私は冷静だ。これまでになく冷静で、落ち着いた心地でここにいる。
――大丈夫だ。負けない。
しんと静まり返った境内。
刀を構えて目に映るのは、目の前の青年ただ一人――。
「――はじめ」
神祇官の声が静寂の中に大きく響く。
私はすぐさま地を蹴った。あっという間に
私は己を信じて刀を振るう。
――
私が主に
そのとき、ひと際強い風が吹き抜ける。
細めた私の眼差しが、楽しげな青年のそれを
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