世界の真実
灯台には、地下に続くエレベーターが設えられていた。
ハルキは、ダンテに促されるまま、そのエレベーターのケージに乗りこんで、下層へと下りていった。
地下五十五階という、地下深くの深淵に辿り着き、エレベーターがケージを開くと、そこには、思わず目を見開いてしまうような光景が広がっていた。
広々とした空間には、脳髄のような配管が絡まり合いながら伸び、その中央で、半透明のエメラルド色をした液体で浸された筒状のカプセルの中に、一人の少女が漂うように浮かんでいた。
プラチナブロンドをした、思わず見惚れてしまうくらいに美しいその少女は、一糸纏わぬ姿で、両手を広げながら瞼を閉じている。
「さて、ここで少し話をしようか」
ダンテが言うと、ハルキの前の床から、丸い天板のテーブルが、シュインと音を立てながら生えてきた。
「珈琲は出せないがね」
「ここは、どういうところなんだ?」
色々と不可解なことが連続して起こり続け、頭の理解が追いついていない。
「とりあえず、座って話をしよう」
とダンテが、テーブルの席に座る。
「さあ」
促されて、ハルキもしかたなくその対面に腰かけた。
「ここがどういうところなんだ、という質問だったね。ここは、『
ここが、そうだったのか。あの『
「それじゃあ、そのカプセルの中に入れられている少女は?」
「彼女こそが、人類至上最高の頭脳を持つとされる少女、シオン・アルヴァレズだよ」
「彼女が……?」
この眠ったままでいる美しい少女が、シオン・アルヴァレズ--俺達が、長年、世界を破壊し、
「シオンは、六歳だった頃、
「どうして『
「『
「神……」
確かに、見た目だけ見ると、まるで生ける女神のようではあるが。
「だが、シオンはそれを拒んだ。彼女は、確かに世界を憎んでいたよ。両親を早くに亡くしたこともあったが、唯一無二の天才であるということが、彼女にずっとひどい孤独感をうえつけていた。それで周囲から虐めを受けることもあったろうし、そんな世界だったら、なくなってしまってもいいとさえ考えていたかもしれない」
天才ゆえの孤独--それは、落ち零れと揶揄しながらも、愛してくれる者や友人達がいてくれたハルキには理解できない。
「ただ、考えることと、それを実行に移すこととは違う。世界を憎みはしても、実際に滅ぼしてしまおうとする忌むべき所業に手を貸そうとはしなかった。彼女はその点、『
「それが、人間として当たり前だろう? 普通じゃないのは、『
「そのとおり」
ダンテは頷くと、
「その普通じゃない『
「だけどそれでも、『
「いや、『
「あいつが?」
「あの
『
「私がやれることは、そんな愚かな裁きなんてものに、シオンの手を汚させないことくらいだった。そのため、シオンは、世界を破壊した
「そうだったのか……」
自分達は、ずっと間違ったことを信じさせられていた。
真実を知らずに、何の罪もない、ただの被害者である一人の少女を憎み続けていたんだ。
「その後、私はこうして、肉体を失った存在となったことで、永遠の命みたいなものを授かりはしたが、それもほんとうの永遠じゃない。ここのコンピューター・システムが破壊されてしまえば、それまで。そして、その時はいずれやって来る」
「その時って?」
「あのニースを動かしていた
「なんだって!? だったら――」
「案ずるな。あの
「それまでの猶予は?」
「三日だ。それだけの時間があれば、この秘密要塞の地下通路を、全自動エアカーで抜け、アメリカ大陸に出ることができるだろう。君が爆撃に飲まれることはない」
「だけど、あんたらはどうするんだ? あんたはデータだけの存在だってんだからまだいいかもしれないけど、そこのカプセルに入ってるシオンは、まだ眠ってるだけで生きてるんだろ?」
「そうだ。だから、君に、シオンをつれて行って欲しいんだ」
「つれて行けって……二人だけで、どうしろってんだ? このなにもない世界で、二人きりで生きていけって言うのか?」
「アメリカ大陸の出口には、小規模なアーコロジーがある。そこはまだ爆撃が及んでいない。
「それは分かったけど……そこで二人きりで生活することで、あんたは俺達になにを望んでいるんだ?」
「世界の再生さ。アダムとイヴとなって、この終わりを迎えようとしている世界を、また一からつくりなおして欲しい」
「断ったとしたら?」
「その時は、君が寿命をまっとうできたとしても、新しい命は生まれずに、世界が終わる」
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