謎の老人

 波打ち際にいる紳士然とした老人は、にこやかな笑みを浮かべているが、足が地に着いていない。両手で灰色のステッキの握りを持ったまま、宙に浮いていた。


三次元立体映像ホロ・プロジェクション……?」

 ハルキが怪訝に呟くと、

「そう。私は、肉体を持たないからね」

 老人男性が、嗄れた声で頷きを返した。


「あんた、何者なんだ?」

「私は、ダンテ・ディ・ヴェナンツォ。『Torarトーラー』の枢機卿だった一人、と言えば、理解してもらえるかな?」

「なんだって!?」

 ハルキは咄嗟に、手にしていたレーザー・ガンの銃口を、その老人へと向けた。


「そんな物騒なものを向けないでくれ」

 ダンテと名乗った老人が、眉をひそめながら。

「どうせ私は三次元立体映像ホロ・プロジェクションで投影された姿でしかないんだ。レーザー射撃をどれだけ浴びせたところで、殺せるわけじゃない」


「だまれ! 世界を破壊して、たくさんの命を奪った元凶のくせに!」

 ハルキが気色ばみながら凄むも、

「それは誤解だよ」

 あくまで泰然として。


「なにが誤解だ!」

「確かに、『Torarトーラー』は悪しき組織だった。だが、私は彼らとは違う」

「そのメンバーの一人だったって自分で言っただろう!」

「そう」

 と憂うように目を伏せると、

「だが、そうしていたことを私は後悔している。この目の前に広がる海よりも、深く悔いているんだよ」

「そんなの、自業自得だろう!」

「そうかっかしないでくれ」

 とダンテは片手を上げて制すると、

「世界の真実を、知りたくはないかね? それを知れば、君への誤解も解けると思うのだが」

「世界の真実、だって……?」

「君が知り得ている事実は、偽りでしかない。語られなかった真実が、あそこに眠っている」

 ダンテは言うと、片手に持ったステッキで、砂浜の先を指し示した。


 そこには、一棟の灯台が立っていた。



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