【Episode:20】 肉を切らせて骨を断つ -Lose the Battle to Win the War-
恍惚の蛮勇
シオンは、エノシガイオスとともに海中深くに沈んでいったノアの死を悲しむ暇をハルキに与えなかった。
怒っているようだった。
片翼をもがれたことで、最強の矜持を傷つけられたのだろうか。
その怒りをぶつけるように、次々と叩きつけるように振り下ろされる電磁鎌。
その猛撃を電磁ソードでさばききることができず、その度に、プロテクション・フィールドが傷つけられていく。
片翼となってバランスを欠いているだろうに、この動き。遊ばれていた時とはまるで違う俊敏性。
左足だけで輝いていのが、右腕の甲に刻まれた『Ⅵ』も輝きを放ったかと思うと、その性能が、それまでとは比べものにならないくらいに跳ね上がっていた。
その輝きは、リミッターの解除を意味しているのかもしれない。
だとすると、額に刻まれている『Ⅵ」がまだ点っていないのを見ると、ニースは、もう一段階の性能アップを控えさせていると考えるべきだった。
だが、まだ第二段階とは言え、このままでは、プロテクション・フィールドが維持できない。
傷つけられるたびに多くのエネルギーを消耗していき、最後には消える。
エノシガイオスを欠いた今、補給することもできないため、エネルギーを欠損してしまえば、その盾を失って八つ裂きにされてしまうことになってしまう。
このままでは、負ける。
となれば――。
「やるしか、ないか……」
まだ、手がないわけではない。
ニースがそうしているように、ジョシュアにも、リミッターで制御されている機能がある。
トランス・モード。
リミッターを解除してその機能を発動すると、ジョシュアの性能は、飛躍的に向上する。今の数倍にまで跳ね上がるだろう。
だが、それは最後の賭け。
その発動時間には、制限がある。
一分。
時計の秒針が一周するまでという、たったそれだけの間に、相手を倒すことができなければ、ジョシュアは、すべてのエネルギーを使い尽くし、飛ぶことさえ叶わなくなり、海の底へと沈む。
そして、そのトランス・モードは、パイロットにも多大な負荷を強いる。
悪くすれば、脳機能に深刻なダメージを受け、身体不随となったり、最悪死を迎えることさえある、と聞いている。
諸刃の剣、だった。
だが、その諸刃を用いなければ、このままやられるのを待つ以外にない。
やってもやらなくてもどうせ死ぬんだとしたら、やって死ぬことを選ぶ。
危険は、この戦いに挑んだ時から承知の上だ。
他の皆だって、命を賭して散っていった。
この世界を守るために。
その役目を最後に託された自分だけが楽に死のうだなんて、虫がよすぎる。
「やるか」
ハルキは決意すると、そのトランス・モードの制御リミッターを解除した。
〈トランス・モード、発動〉
女性的な合成音声が告げるとともに、白亜のジョシュアが、まばゆいばかりの白い光を放ち始めた。
トランス・モード解放時のリアクション。
光輝なる存在となったジョシュア。
同時に、ハルキの脳に、重い負荷がのしかかる。
まるで、脳髄の中を、刃物でずたずたに切り裂かれているかのような、狂わんばかりの激しい痛み。
耐えられない。
だが、耐えるしかない。
この痛みを耐えた先に、この世界の未来が待っているのだと信じて。
「うぉおおおおおお!」
気合いのかけ声で、脳に走る痛みをまぎらわせながら、ハルキは、白い閃光とったジョシュアを、ニースめがけて疾駆させた。
*
電磁ソードで、振るわれる死神の鎌をなぎ払い、ニースのプロテクション・フィールドを切りつける。
トランス・モードは、ニースの第二段階目のリミッター解除の性能を勝っているようだった。
ジョシュアが振り下ろす電磁ソードの一撃一撃は、確実に、ニースのプロテクション・フィールドを剥がしていっていた。
「いける!」
ハルキが勝機を見い出した時だった。
ニースの額の『Ⅵ』が、赤い光を点らせた。
「三段階目か……!」
最終リミッターを解除したニースも、その機体を赤く輝かせ始めた。
夜空に輝く、白と赤の二つの輝きが、ぶつかる。
ともに死力を尽くした戦い。
だが、先程まで攻勢に出れていたジョシュアだったが、最終リミッターの解除で、その戦況は覆されることとなった。
面白いようにニースのプロテクション・フィールドを切りつけていた電磁ソードが、死神の鎌に弾かれ、逆に、ジョシュアのプロテクション・フィールドが切り裂かれる。
一撃、二撃、三撃--。
次々と死神の鎌の斬撃を浴び、プロテクション・フィールドが剥がされていく。
その最中--。
〈トランス・モード、持続時間ゼロ〉
合成音声が、冷淡にその終わりを告げた。
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