【Episode:19】 海を割る光 -A Ray Divided the sea-

眩い光

 補給を終えたジョシュアは、上空で待つニースの元へと飛んだ。


 ニースが、ゆっくりと組んでいた腕を解き、臨戦態勢に入る。



「よし、ノア、やるぞ!」

 ハルキは号令をかけるとともに、ジョシュアに、レーザー・ライフルによる砲撃を放たせた。


 だが、そのレーザー砲撃は、ニースには当たらなかった。

 ニースもプロテクション・フィールドを展開しているが、それに弾かれたというわけではない。

 ジョシュアの放ったレーザー砲撃は、眼下に浮かぶ小島の森を焼いていた。

 狙いが外れているにもかかわらず、ジョシュアは、その小島めがけて、なおもレーザー砲撃を浴びせ続ける。

 爆炎を上げながら、小島の森が焼かれていく。


 その奇妙なジョシュアの戦いぶりに、ニースが首を傾げながら、その孤島へと顔を向けた。


 その隙を見て、ハルキは、

「今だ、ノア!」

 叫ぶように指示を飛ばした。

「OK! ハルキも目を閉じておいてね!」


 ノアからの応答があるとともに、夜空に打ち上げられていた疑似太陽AS装置が、それまでとは比べものにならないくらいの輝きを放った。

 溢れ出た白く眩い光が、夜のカリブ海グレナディーン諸島の一角を覆い尽くす。


 ノアが、疑似太陽AS装置の放つ光を、瞬時に最大光量にまで引き上げたのだ。

 疑似太陽AS装置は、そういった奇襲のための装置として開発されたわけではないが、使い方次第で、こういった目くらましをすることもできる。

 パイロットとしての能力が他より劣っている分、シミュレーションの時は、こういった奇策によってどうにか敵を翻弄できないかということばかりに頭を悩ませていた。

 落ち零れであることが、功を奏したのかもしれない。


 そうとは知らないでいたシオンは、眩いばかりの光に包まれて、まったく視界が利かない状態に陥っているはずだ。バイザーをつけてはいるだろうが、通常モードのままであれば、それで防ぎきれる光量ではない。


「続けて、主砲だ、ノア!」

 ハルキが次なる指示を飛ばす。

「主砲、発射!」


 既にエネルギーの充填を終えていたガイオスの主砲が、その巨大な砲塔から、白い光に包まれたニースめがけて、陽電子の束を放つ。



「やったか……」

 ハルキが呟く。

 バイザーの遮光率を最大にしていたため、疑似太陽AS装置が放った輝きで目をやられてしまうことはなかったが、まだその輝きは消えていないので、エノシガイオスの主砲の一撃が、ニースを貫けたかどうかは分からない。


「手応えはあったよ」

 ノアが自信ありげに答えた。



 眩いばかりに放たれていた白い光が、次第に薄れ、あたりが薄闇に包まれる。

 夜が始まってからずっと、あたりを輝かせていた疑似太陽AS装置は、今の発光ですべてのエネルギーを使い果たし、その役目を終えて、光を失っていた。


 ハルキとノアが固唾を飲んで見守る中、雲間から差す仄かな月明かりに照らされて、ニースの赤い機体が闇の中に浮きぼらた。


 その六枚ある翼の内、右側の三枚が、もがれたようにして失われていた。



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