奇策


 無人戦闘機部隊ヴァルチャーズとの戦いと違って、相手はたった一機のロボット兵器。

 数の上では、こちらに分がある。


 基本的な作戦は、ジョシュアが引きつけて応戦しながら、ガイオスが援護射撃をするという、無人戦闘機部隊ヴァルチャーズとの戦いとほぼ同じやり方。


 だが、そのジョシュアとエノシガイオスでの連携プレーで挑んだニースとの戦いは、無人戦闘機部隊ヴァルチャーズとの戦い以上に厳しいものがあった。


 ただ一つ、ニースは、強かった。

 『Torarトーラー』が最強を謳っていただけはあった。

 ノアの両親であるジョシュアとソフィアという二人の天才が生み出した英知の結晶であるジョシュアも、基本的な性能の面で、一つ二つ劣っていた。


 その差があるからだろうか。

 シオンは、遊んでいるようだった。

 ジョシュアが劣勢と見て退くと、それを追うことはせず、補給するとなっても、ただ上空に浮かんだまま静観するだけ。


 おかげで、歴然とした性能の差がありながらも、すぐにケリをつけられるということもなかった。


     *


「どうする、ハルキ? なにか新しい作戦を立てないと、どうしようもなさそうだよ?」

 ノアが焦りを滲ませながら。


「ああ、分かってる」


 ニースとの戦いを始めて三回目の補給をジョシュアがしているところだ。ニースは遠くから、余裕一杯に両腕を組んでそれを眺めている。

 シオンの鼻歌が聞こえてきそうだった。


「ノア、主砲はあと何回くらい撃てそうだ?」

「そうね……補給でだいぶエネルギーが減っちゃってるから、よくて後二回ってところかな」

「よし。だったら、最後の一回は、要塞を爆撃する時のためにとっておくとして、もう一回を、このニース戦で使うぞ」

「でも、正攻法でやっても、あの性能だったら、簡単に躱されちゃうんじゃない?」

「ああ。だから、こういう奇策を考えてみた」


 ハルキは、戦闘中に思いついていたその奇策を、ノアに話して聞かせた。

 相手はこっちを舐めてかかっている。

 だとすれば、そこにつけいる隙がある。

 強者には思いもつかない、落ち零れなりの奇策ってやつを見せつけてやる。


「--うん、いけそうだね」

 それを聞いたノアが、賛同する。


「よし、それじゃあ、補給を終えたら、そいつを試してみるぞ。余裕かましてやがる子犬ちゃんに、一泡吹かせてやろうぜ」


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