再びの迷い

 ハルキは、自室に戻り、ベッドに横になって、棚に収められていた文庫本を開いていた。

 ノアは、エノシガイオスを自動航行に任せたまま、自室で塞ぎこんでいる。

 ジークは、アルツ・ヴィマーナの調子を見てくると、その格納庫に向かった。そのジークも、表には出さないようにしているようだが、やはり気持ちが沈んでいるのを隠しきれてはいなかった。


 自分もそうだ。

 『大いなる災禍ファータル・カタストロフィ』の後、十年間をすごしたプラセンタが――そこにいた皆が、爆撃にあって焼き尽くされてしまったのだから。


 なんとか気を紛らわそうと読書することにしたが、文字を目で追うも、内容が頭に入ってこない。

 心の内は、色々な葛藤がせめぎ合っていた。

 プラセンタのことは考えないようにしようとしたところで、間近に控えた決戦を避けられるわけでもない。


 明日の夜明けには、敵の要塞があるというカリブ海に浮かぶグレナディーン諸島の近海へと到着する予定だ。


 だが、敵もそうやすやすと、反応兵器RWによる要塞への爆撃作戦を許すはずがない。

 そこへと至る前の海域で、無人戦闘機部隊ヴァルチャーズが迎え撃つだろうと予想できる。

 そして、その後ろには、シオンが最強を謳い、自ら搭乗する人型ロボット兵器ニースが控えている。


 ジョシュアやエノシガイオス、アルツ・ヴィマーナも、科学の粋を極めて造られた兵器だ。

 だが、ニースがどれ程の性能を誇っているかが未知数である以上、どれぐらいやり合えるかは、まったく予想がつかない。

 勝っているかもしれないし、互角かもしれないし、劣っているかもしれない。

 仮に性能の面で優っていたとしても、同じブレインBコンピューターCインターフェイスI・システムを搭載している機体同士の対決である以上、パイロットの能力如何に左右されるわけで、性能の差だけで勝負が決まるというわけでもない。


 はたして、自分にどれだけやれるだろうか……。


 出撃の際は、気分が高揚していたこともあり、吹っ切れたと思っていた。

 だが、ここにきて、再び迷いが生まれようとしていた。

 プラセンタが『怒りの日ディエス・イレ』の爆撃を受けたことが、それを助長しているのかもしれない。


 ハルキは、それを振り払うように、ベッドから跳ね起きると、文庫本をデスクの上に置いて、甲板に出ることにした。夜の潮風を浴びて、少しでも気を晴らしたい。

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