迷いを吹っ切って

 世界を救う、だって……?

 この俺が……?


 できっこない。

 できやしない。

 そんな大それたこと。


 分不相応。

 無理に決まってる。

 無能。

 卑屈。

 意気地なし。

 落ち零れ。


 分かってる。

 その器じゃないことくらい。

 資格もなければ、才能もない。


 未来なんて、どうだっていい。

 誰かが悲しい想いをしたって、本当はかまわない。


 どうせ、無理なんだ。

 俺みたいなやつには。


 このまま、闇の中に溶けて、ずっと眠れていたらいいのに――。


 ハルキは、コクピットの中、瞼を閉じて、意識を内に向けていた。


「ゲートに辿り着いたわよ」

 ノアからの通信が入った。

まだ涙声ではあるものの、自分にしかできない役目を必死に務めようと、気丈さを見せている。

「このゲートを開いて海上に出たら、プロビデンス・アイの監視下に晒されることになる。すぐにここにいるってばれちゃうわ。そうなったら、もう後戻りはできないよ?」


「いつでもOKだ。愛しのヴィマーナちゃんは、すこぶるご機嫌みたいだぜ」

 ジークが軽い調子で言う。

 こんな状況下に不謹慎だと思えるかもしれないが、だからこそ、冗談めかして、ともすれば塞ぎこんでしまいそうになる気持ちを少しでも楽にしようと配慮してのことだろう。


「ガイオスもオールグリーン、いつでも行けるわ」

 ノアは返すと、

「ハルキ、そっちは? 準備はいい?」


 ノアから向けられた声に、ハルキは、閉じていた瞼をゆっくりと開いた。


 ――だけど、俺にしかできないんだ。


 逃げることだってできる。

 だけど、そうしてしまえば、これまでの自分を変える機会は、永遠に訪れない。


 これまでに受けた傷--。

 背負わされた悲しみ--。

 すべての雪辱を晴らすための戦い。


 そして、この世界を守るための戦い。

 自分達だけにしかできない戦い。


 勝って、未来をこの手に掴む。



「ああ。こっちもOKだ。いつでもかまわない」


「それじゃあ、いくわよ」

 ノアは促すと、

「せーの――」


「『チーム・トライデント』、出撃!」


 三人は声を合わせて、声高に号令を叫んだ。

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