アラタとカホ

 ジークがハンドルを握り、制限速度を無視したスピードで走るマイクロバスが、世界再生機関リバース本部近くのB1区画にまでやって来た時。


「ジーク、悪い、ちょっと止めてくれ!」

 運転席の後ろに座っていたハルキが、声を大きくして。


「なんでだ? 寄り道してる暇なんかないぞ?」

 ジークが戸惑いながら答えた。


「ジーク、私からもお願い。アラタとカホがいるの」

 とノア。


 ジークは思案げにしながらも、

「……分かった。少しの間だけだぞ」

 とブレーキを踏むと、道の先にいたアラタとカホの前で、マイクロバスを停車させた。



「ハルキ!」「ハルキ!」

 停車したマイクロバスの窓から顔を出したハルキに、アラタとカホが呼びかけた。


「二人とも無事だったんだな」

 ハルキがその二人に笑顔を向けながら。


「ああ、もちろん。アラタ様は無敵よ」

 とアラタがむんと胸を張ってみせる。

 その手には、先が凹んだ金属バットが握られている。もう片方の手には、球形をした躯体をべこべこに凹まされたサーチ・アイが握られている。常に光っている目玉の部分も、今は点っていない。完全に壊れて機能を停止しているようだ。


「気味の悪い目玉も、私達でやっつけちゃったんだから」

 カホが誇らしげに。カホも手に野球のグローブを嵌めている。


「そのサーチ・アイ、お前ら二人で倒したのか?」

 ジークが意外そうに。


「そうだよ。こいつで不意打ちしてやったんだ。こいつ案外脆いな」

 アラタは、手にした金属バットをぶんぶんと振り回してみせた。


「ほんとに? すごいじゃない」

 ノアが驚きながら称える。


「嘘だからね、本気にしないで」

 カホが改める。

「そこのバッティングセンターで遊んでたら、そこにこの目玉が迷いこんできて、丁度バッティングマシーンから飛んできたボールが当たって、壊れたってだけだから。アラタはその動かなくなったこいつを、持ってたバットでフルボッコしただけ」

「まあ、そうとも言えるな」

「そうとしか言えないわよ」


 そんないつも通りのふざけた二人のやりとりに、ハルキは、少しばかり心を和まされつつ、

「とにかく、無事でよかったよ。一緒に本部に来ないか?」

「いや、俺達は避難所に行くよ。俺達が本部に行ったところで、なにもできやしないしな」

「そうだね。プラセンタの未来は、ハルキ達に任せるよ」


「それじゃあ、そろそろ行くぞ、ハルキ、長話してる余裕はない」

 ジークが急かす。


 ハルキは、「分かった」と答えると、二人に、

「それじゃあ俺達はもう行くよ。二人とも、死なないでくれよ」

「ああ」「もちろん」

 二人は頷くと、

「頑張れよ、ハルキ。他の二人も」「右に同じく」


 ハルキとノア、ジークが、二人に頷きを返す。


「よし、それじゃあ出すぞ」

 ジークが言い、マイクロバスが、再び走り始める。


 ハルキは、こちらに向けて手を振っている二人が見えなくなるまで、ずっと窓からその姿を眺めていた。



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