【Episode:11】 見ぃつけた! ― I Find You! ―

倒壊した合宿所

 ノアと一緒に丘を駆け下りる中、ハルキは、装身型携帯ウェアラブル・フォン世界再生機関リバース軍本部へと連絡をとろうとした。


 だが、通信は不能だった。

 装身型携帯ウェアラブル・フォンのモニターには、先程から、『I find you!』という赤い文字が、埋め尽くすように流れ続けている。


 おそらく、シオンから放たれているメッセージ。

 ゲートが開いたことで、敵の放つ電波の侵入も許し、プラセンタの通信を制御するコンピューター・システムがハッキングを受けたらしい。

 これでは、この緊急事態だというのに、本部だけでなくどことも連絡がとれない。


 『怒りの日ディエス・イレ』による爆撃が敢行されていないところを見ると、開かれたのは地上とを繋ぐゲートだけで、全十二層ある防護壁アイギス・シールドはまだ無事のようだから、爆撃によってすぐに崩壊させられるということはなさそうだ。


 しかし、そのゲートが開いたことで、プラセンタ内には今、周辺を彷徨っていたサーチ・アイの群れが大挙して押し寄せているはずだ。

 今は、一刻も早く、その危険を回避する行動をとらなければならない。


 そのためには、まず合宿所にいた皆の元へと向かわなければと、その身を案じながら、倒壊して火の手が上がる合宿所の前へと辿り着いた。


 合宿所は、その半ば程が崩れ落ち、夜の闇を焦がさんばかりの火の手が上がっていた。

 消火活動にあたっている者は誰もいない。


 就寝時間となってホールで寝ていた他の候補生カデッツや、その近くの部屋にいた教官たちは、皆この燃え上がる火の中で--


 と--。


 倒壊し燃え上がる合宿所の裏手から、一人の人物が、よろよろとした足どりで姿を現した。


「桧川さん!」「桧川さん!」

 ハルキとノアが、慌ててその元へと駆け寄る。



 二人が傍に寄ると、ソウイチは、その場に頽れて、その身を地面に横たえながら、

「……ハルキ……ノア……」


 ソウイチの右足の大腿部には、尖った木片が突き刺さっていた。動脈が傷つけられているのか、その傷口から大量の血がどくどくと流れ出ている。


「お前達だったのか……夜遊びをしていたのは……だめじゃないか……規則を破っちゃあ……」

 弱々しく咎められながら、ハルキは、

「桧川さん! いったいなにがあったんですか!? 他の皆は?」

「なにがあったんだろうな……開いていた玄関から外に出たら、突然爆発が起きて、合宿所が崩れ落ちて燃えていた……」


 おそらく、爆破テロ。

 首謀者として考えられるのは、『デア』以外に考えられない。

 その幹部というアムリタは、以前、『Operation Phoexixオペレーション・フィーニクス』を阻止するために、ハルキ、ノア、ジークの命を奪おうとした。

 その危機は、アレクシオ神父らの助けを借りてなんとか回避し、それ以後特に動きを見せることがなく、諦めたのかと思われていたが、ここに来て、まさかこういう行動に移るとは思ってもみなかった。


 だが、候補生カデッツが集まるこの合宿所は、監視システムにより、そのような動きを未然に察知する対策がとられていたはずなのに、なぜ――。

 『デア』を甘くみすぎていた、ということだろうか……。



「ハルキ、とりあえず、桧川さんを病院へ」

 ノアが必至な顔で。


「そうだな。マイクロバスは無事みたいだ」

 と駐車場に停めてあるそのマイクロバスへと目をやりながら。

「あれに乗せて――」


「いや、俺はもうダメだ……」

 ソウイチは力なく遮ると、

「お前達は、本部へ行け……通信がハッキングされているのを見ると、敵にプラセンタのことがばれてしまったみたいだからな……この緊急事態に、召集がかかっているはずだ……そこで指示を仰ぐんだ……」


「桧川さんを置いてなんて、できません!」

 ハルキが拒むと、

「行くんだ!」

 ソウイチが、最後の力を振り絞るように叫んだ。

「ハルキ……お前と最初に会った時は、正直ダメなやつだな、って思ったよ……だけど、お前は成長した……剣道も、そして、ジョシュアの操作においても、な……」

「桧川さん……」

「もう、ジョシュアを動かせるのは、お前しかいないんだ……だから……俺の代わりに、皆を……プラセンタを……」

 ソウイチは次第に声を弱らせながら、最後に、「守ってくれ……」絞り出すように言うと、ゆっくりと瞼を閉じた。

「桧川さん!」「桧川さん!」



「ハルキ! ノア!」

 動かなくなったソウイチの前で、悲しみに暮れるハルキの背後から、声がした。

 振り向くと、そこにいたのはジークだった。


「ジーク! 無事だったのか!」

「ああ、酔い覚ましに夜風に当たりに出ていたおかげで、命拾いしたぜ」

 ジークは二人の傍に寄りつつ答えると、

「とりあえず本部に向かうぞ。マイクロバスは無事みたいだから、そいつをフルスピードで飛ばせば、そう時間はかからないはずだ」


「でも、桧川さんが……」

 ノアが涙ぐみながら。


 ジークは瞼を閉じて頭を振ると、

「悪いが、置いていくしかない。生き残った俺達には、他にやるべきことがある」


「でも……」


「ノア、行こう」

 決意したハルキが、顔を引き締めながら。

「桧川さんも、それを望んでいた。俺達は、俺達にしかできないことを託されたんだ」



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