サバイバル

 四日目までの訓練を終え、残すところ、五日目と六日目に行われるサバイバル訓練のみとなった。


 サバイバル訓練は、三人で一組となって、森の中に入り、それぞれ指定された地点でキャンプを張り、食料を自ら調達し、一夜をすごさなければならない。


 くじ引きをしてハルキが組んだ二人は、日本人の小畑おばたヒロトと、フランス人のジュリアン・フォーレルだった。訓練以外でも友人づき合いのある仲の良い二人だ。


 早朝六時に、合宿所前の広場に他の候補生と集まったハルキとヒロト、ジュリアンの三人は、出発の笛が鳴ると同時に、その先に広がる森へと分け入って行った。


     *


 ハルキ、ヒロト、ジュリアンの三人は、昼間は山の中で山菜を採り、夕方になると、渓流で釣りをした。


 採れた山菜は、キノコ類など結構な量になり、釣果もヤマメやイワナなどが十匹近く釣れ、なかなかの食事にありつけそうだった。


 陽が落ち、夜の帳が下りた河原でキャンプを張った三人は、たき火を囲み、採れた山菜を煮詰めたスープを茹で、鉄串に刺した川魚を焼きながら、気の置けない仲間同士、会話を弾ませていた。



「なあ、ハルキ、お前って、ノアとつき合ってるんじゃないの?」

 まだ顔にそばかすの残るヒロトが、勘ぐるように尋ねてきた。


「ノアとはただの友達だよ。それ以上の関係はない」

 答えながら、手にした珈琲の注がれたカップを、静かに口へと運ぶ。


「え-、ほんとかよ?」

 ヒロトが訝しむ。

「ほんとはつき合ってるんじゃないの? いつものお前ら見てると、そうとしか思えないんだけどな。なあ、ジュリアンもそう思うだろ?」


 尋ねられたジュリアンは、そのくせっ毛を指で弄ぶように摘まみながら、素っ気なく、

「僕は別に、どっちでもかまわないけど。興味ないし」

「面白くないやつだな。そんなだから、情けない男子だって女子達からバカにされるんだよ」

「別に、気にしてないし。実際、僕は情けないからね」

「ジョシュアの候補生カデッツとは思えない発言だな」


 ジュリアンは、ハルキと同じ、ジョシュアに搭乗する適正のある候補生カデッツ

 ヒロトは、アルツ・ヴィマーナに適正がある。


「僕は適正があるってだけで、戦いとかには向いてないからね」

「ほんとに情けないな」

「そう言うヒロトだって、戦争とかは嫌いだっていつも言ってるじゃないか」

 とハルキ。


「当たり前だろ。そりゃあ英雄になりたいって気持ちがないわけじゃないけど、それに命を賭けれるかっていうと、そうじゃない。俺はまだやりたいことが一杯あるんだ。この若さで犬死にしたくないって」

「僕もその点については同意するね」

 とジュリアン。


「それにどうせ、ジークベルト教官がいるんだったら、俺に出番が回ってくることなんてあり得ないからな。ジョシュアにも、桧川さんっていう最有力候補がいるわけだから、ハルキもジュリアンもパイロットに選ばれることはないだろ」

「誰だって、やっかいごとは他人任せにしたいものだからね」


「ああ、確かにそうだ」

 とハルキ。

「自分にできないことは、できるやつに任せておけばいいだけだからな」


「合同シミュレーションでは、散々だったもんな。ノアとジークベルト教官にまで、『落ち零れのDディー・ファーレン・スピル』の仲間入りさせちまってさ」

 ヒロトがせせら笑いながら。


 三人でそんな風に、和やかに会話している時だった。

 森の中から、野鳥の声にまじり、なにかドサリという不審な物音が届いてきた。



「なんだ……?」

 ヒロトが怪訝に。

「もしかして、熊が出たとか……?」

 ジュリアンが怯えたようにする。


 ハルキは、手にしていたカップを置き、腰を上げながら、

「とりあえず、確かめに行ってみよう。もし熊がいたとしても、レーザー・ガンを持ってるんだから、その時は撃ち殺せばいいだけだ」


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