仮想『Operation Phoenix』

 二日目、三日目とすぎ、四日目には、シミュレーション訓練が開かれることになった。


 このシミュレーション訓練では、合宿所にその筐体が持ちこまれたシミュレーターを使って、一人でではなく、『Operation Phoenixオペレーション・フィーニクス』を想定して、巨大人型ロボット兵器ジョシュア、巨大戦艦エノシガイオス、巨大戦闘機アルツ・ヴィマーナの三機がともなって、敵の無人戦闘機部隊ヴァルチャーズと戦闘する。

 その模様は、他の候補生カデッツ達の前で、矩形の大型三次元立体映像ホロ・プロジェクションモニターとして映し出される。



「それでは今から、仮想『Operation Phoenixオペレーション・フィーニクス』のシミュレーション訓練を始める」

 指導教官の一人である壮年男性が告げた。


 その傍らには、シミュレーション機材である筐体が三つ置かれ、その前には、候補生カデッツが、自分達が乗る機体に応じて列を作り並んでいる。いつもは教官を務めるジークも、アルツ・ヴィマーナの候補生カデッツの一人でもあることから、その列の二番手に並んでいる。


「それでは、最初の一組目。桧川ソウイチ、アルバート・ウェブスター、エミリア・メリカントの三人、シミュレーターに乗りこめ」


 命じられた三人が、「はい」と前へと出て、それぞれのシミュレーターに乗りこむ。


「それでは、初め!」


 こうして、仮想『Operation Phoenixオペレーション・フィーニクス』のシミュレーション訓練が始まった。


     *


 最初の一組目であるソウイチ達のシミュレーション訓練が終わり、三人がシミュレーターから出ると、その前に並んでいた候補生カデッツから、拍手と喝采が巻き起こった。


 三次元立体映像ホロ・プロジェクションを通して見ていたその三人の戦いは、見事の一言に尽きた。


 巧みな戦術で次々と敵機を撃墜していき、ものの三十分という短時間で、ほとんど無傷のまま、総数百体もの無人戦闘機部隊ヴァルチャーズを殲滅させていた。


 評価は、もちろんのSランク。


 ソウイチが優秀なのはもちろんだが、他の二人も、いつものシミュレーション訓練でAランク以上を叩きだしているだけあって、さすがの精鋭だった。

 この三人で『Operation Phoenixオペレーション・フィーニクス』を実行に移したなら、きっと成功するのではないか、と思わせるような戦いぶりだった。



「こりゃあ、俺達もうかうかしてられないな」

 二番手が決まっているジークが、その隣に座るノアに言う。


「うん。『チーム・トライデント』の底力、見せつけてやりましょう」

 とノアも意気ごみを表す。


 自分達でそう名づけた『チーム・トライデント』の一員であるハルキだが、あまり自信はなかった。

 ノアとジークは、それぞれエノシガイオスとアルツ・ヴィマーナのパイロットとして、常にシミュレーション訓練ではSランクを叩き出し、候補生の中で最も適任とされているが、自分は、『落ち零れのDディー・ファーレン・スピル』と揶揄されるぐらいの落ち零れ。

 二人の足手まといにならないようにとの思いが、より不安をかき立てる。


「それでは、二番手。秋南ハルキ、ノア・ラティスフール、ジークベルト・ブルクハルトの三人、シミュレーターに乗りこめ」


 名前を呼ばれて、ドキリとしながら、上擦った声で、「はい」と立ち上がった。


「がんばろうね、ハルキ」

 とノアがガッツポーズをしながら。


「いっちょ、かましてやろうぜ」

 とジークが親指を立てたサムズアップを向ける。


 ハルキは、「あ、ああ」と言葉を詰まらせながら、震える足をなんとか動かして、シミュレーターに乗りこんだ。


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