蒼穹の下


「リヤン! 引きかえせ!」

「リヤンさん! 戻ってください! サーチ・アイが寄って来ます!」


 ハルキとデニスが声を大きくして呼びかけるも、洞穴を出たリヤンは、鼻歌まじりに歩を進めるのをやめようとしない。


 まるで、自分の庭を優雅に散歩でもしているような軽やかさ。

 吹く風が、そんなリヤンの髪を撫でるように散らす。


「君達は、もう喋るのをやめたほうがいいよ。敵に気どられてしまうだろうからね」

 自分の身の危険をかえりみることなく、リヤンが言う。


「リヤンさん、どうして……」

「リヤン……」


 リヤンの言うとおり、ビーを使った会話では、サーチ・アイに感知されてしまう恐れがある。指向性音声通話機能が付属されていればその限りではないが、このビーにはその機能がない。デフォルトでは付属していたのだが、どうせ外の世界にいる誰かと会話することなどないだろうからと、経費削減のためにとりのぞかれてしまっていた。



 リヤンはそのままゆったりと歩を進め、開けた場所に出たところで、青空を仰ぐと、

「あの頃が懐かしいなあ……父さんと一緒に、こんな青空の下で、キャッチボールをしていたっけ……」

 と荒涼とした大地に、たった一人立ち、燦々と降り注ぐ陽光を浴びながら、両手を広げて、深呼吸する。


 近くに広がる森の中から、一体のサーチ・アイが現れ出るのが、矩形の三次元立体映像ホロ・プロジェクションモニターに映し出された。


 そのサーチ・アイは、獲物の匂いを嗅ぎつけた肉食獣のように、ゆっくりとリヤンの元へ近づいて来た。


「現れたね。だけど、君達の手にはかからないよ」

 寄って来るサーチ・アイに気づいたリヤンが言う。


 そのローブの前を開いて、ジャケットの懐から、黒光りするレーザー・ガンをとりだした。

 その銃口を、おもむろにこめかみへと当てると、

「さよなら」


 チュンッ――。


 荒涼とした大地に、弦を弾くような音が、小さく鳴った。


 ハルキは、顔を背けて目を逸らすしかできなかった。

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