危機が去って


「ありがとうな、サミー」

 ハルキが、サミーの赤毛を撫でながら礼を言った。


「ハルキはだらしないからね。僕が守ってやらないと」

 とサミーがその小さな胸を張る。


「やはりサミーを連れて来て正解でしたね。おかげで、三人を救うことができた」

 嬉しげにそう言ったのは、神父のアレクシオだ。


「ハルキなんかより、サミーの方が候補生カデッツに向いてるんじゃないか?」

 冗談めかしてそう言ったのはジーク。


 今ハルキ達は、自警団アテ―ナーのワゴン車で帰宅の途に就いているところだ。


 ジークが窮地に立たされていた時、ピィが助けに飛びこんで来て、その後駆けつけた自警団アテ―ナーの突撃部隊によって煙幕が張られ、アムリタは捕らえられたわけだが、それまでの経緯は、こういうことだったらしい。


 教会の祭壇の前で祈りを捧げていたアレクシオは、その時、ハルキとジークが危険な状態にあるという神の声を聞いた。

 それで、信者の一人である自警団アテ―ナーの隊長に頼んで、サミーとピィと一緒に、自警団アテ―ナー一隊を引き連れて、ここへとやって来た。

 普段なら、少しでも危険な場所にはサミーを連れて行こうとしないアレクシオなのに、そうしたのは、それも神のお告げにあったことだったかららしい。

 おかげで、ピィが活躍し、ジークは、間一髪サーベルで突き殺されるのを免れることができた。


 薬で眠らされていたノアは、今病院へ搬送されている。

 どこにも怪我をしている様子はなく、一晩安静にさせた方がいいとのことだが、特に後遺症が残ることもないだろうとのことだった。


 アムリタに強烈な一撃を見舞われたジークも、普段から鍛えているおかげか、幸い骨に異常はなさそうで、念のために病院で検査を受けた方がいいんじゃないか、と言われても、「俺は病院は好かん」とそれを一蹴して、治癒パッチを貼るだけで済ますようだ。まあジークのことだから、そう心配はいらないだろう。



「とにかく、皆無事でよかったよ」

 ハルキは、安堵に包まれていた。


 ノアがなぜ拉致され、自分とジークが狙われたかについては、やはり『Operation Phoenixオペレーション・フィーニクス』を止めさせようとする『デア』の目論みだった。

 それはこうして阻むことができたわけだが、これから先、また同じような危険がないとも限らない。


 だが、今は先のことはどうでもよかった。

 ノアが無事でいてくれて、自分達もその窮地を救われたんだから。


 早く温かい布団に包まって、眠りを貪りたい気分だった。


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