現場の英雄


 積み重なった鉄パイプを工作用ロボットで一本ずつとりのぞいていく作業を始めて数分後――。


「見えたぞ! 作業を止めてくれ!」

 他の作業員の一人から指示が飛んできた。

 その手前側の数本がとりのぞかれ、かまくらのように口を開けた鉄パイプの山から、イエタカの両足がのぞいていた。


 ハルキはそこで、作業の手をとめた。後は、他の作業員に任せれば大丈夫そうだ。


 ハルキが作業用ロボットのコックピットから固唾を飲んで見守る中、指示を飛ばした作業員が、その穴の中へと上半身を突っこみ、イエタカを引っぱり出した。


 わき起こる歓声。

 皆、両手を振って大喜び。


「やったぞ、足利さんが助かった!」

「心配かけやがって……」

「ばんざーい! ばんざーい!」


「お父さん……よかった……」

 仰向けに倒れているイエタカの元に、娘のスズカが駆け寄り、涙ながらにその無事を喜ぶ。



「ハルキの兄ちゃん、あんた、英雄だな!」

 イエタカを引っぱり出した作業員が、工作用ロボットから下りたハルキの肩に手を置きながら称えた。

「ありがとうございます、俺なんかでも役に立ててよかった」


 これまで落ち零れだとばかり揶揄されてきた自分が、初めて人に褒められた。

 それも、英雄だと。

 ジョシュアの候補生として、『Operation Pnoenixオペレーション・フィーニクス』に参加して英雄になることは絶対にないと思っていたが、まさかこんな形で英雄と呼ばれる日が来るなんて。

 なんだかこそばゆかったが、悪い気はしない。


 この一件があって、ジョシュアの候補生カデッツの一人であることに誇りを持つことができ、少しだけ――ほんの少しだけだが、自信が持てたような気がしたハルキだった。



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