悲しい運命
翌日の朝早く、古ぼけた洋館を後にしたハルキ達は、ジークの運転する車で帰路に就いていた。
「今日は、突然雨が降るなんてことはなさそうだね」
後部座席でサイドウインドウを開け、心地よさそうに風を浴びながらブロンドの髪を揺らすノアが言った。
「いい天気だよね。なんかこのまま帰るのがもったいないくらい」
とその左隣に座るサミー。
昨晩、薬を飲んでゆっくりと睡眠をとったおかげで、平熱まで下がり、いつもの元気をとり戻している。
「やっとで思い出した」
ハンドルを握るジークが、片手でぱちんと指を鳴らしながら。
「なにをだ?」
ノアの右隣に座るハルキが尋ねる。
「あの竜だよ。あいつは確か、あの『
「そんな兵器を、どうしてあのヨハンって人がもってたんだ?」
ヨハンは、あの後、竜が壊れたことについて、「お前達が無事だったんだからそれでいい」とだけ言って、もう遅いから寝ろと、他になにを語るでもなく、二階の自室に戻って行った。
翌朝、ハルキ達が、熱が下がって元気をとり戻したサミーを連れて洋館を出るとなった時も、「達者でな」と二言三言の言葉をかけただけだった。
「さあな。あの機械仕掛けの竜を使って、テロでも起こそうと考えてるんじゃないか? だとしたら、サミーを救ってくれた恩があるとはいえ、見すごすわけにはいかないけどな」
「違うと思うよ」
とノア。
「あの人、『
「だとしても、なにも殺戮兵器を選ぶ必要はなかったはずだろ? どこで拾ったか知らないが、ちゃんと行政に届け出るべきだ」
「そうしたら、きっと危険なロボットだからって、処分されちゃうでしょう? だから、そうしなかったんだよ」
「あの竜も、悲しい存在だよな」
とハルキが憂うように。
「兵器として生まれたことで、人を傷つけることしかできなかった。もしかすると、元エンジニアだっていうヨハンさんは、あの竜のそういう部分をとりのぞいてやろうって考えていたのかもしれない」
「普通のロボットとして生まれ変わらせてやろうとしていたってことか」
ジークは言うと、慮るように、
「だとしたら、事故だったとは言っても、壊させちまったのはなんだか忍びないな」
「ピィみたいに可愛がられるロボットだったら、よかったのにね」
とサミーがそのピィの頭を指で優しく撫でてやりながら。
サミーの言葉を代弁したピィが、今度は自慢の合成音声で、
「ピィは可愛い! ピィは可愛い!」
「そうだな」
ハルキは頷くと、背後を振り返った。
リアガラス越しに見える、あのヨハン一人となった古ぼけた洋館が、小さく、ひっそりと佇んでいるのが見えていた。
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