動き出す竜
ノアの後で、ハルキとジークは一緒に風呂に入った。
浴場は広々としていて、二人で入ってもあまりある程だった。
普段ヨハン一人で使っているというのだから贅沢だ。古ぼけた洋館ではあるが、豪邸と言っても差し支えないので、もしかするとかなりの資産家なのかもしれない。
「あのヨハンっておっさん、口べただけど、根はいい人みたいだな」
脱衣所で着替えながら、ジークが言った。
「ああ。おかげで、サミーの風邪もすぐによくなりそうだしな」
ハルキが答える。大事に至らなくてほっとしていた。
「それにしても、あの竜、気になるんだよな」
とジークが眇めた目を持ち上げながら。
「どうしてだ?」
「どっかで見た覚えがあるんだよ。随分昔のことだった気がするから、あまり覚えていないんだけどな」
「ロボットってことだから、どっかの企業が造った製品なんだろ? だったら、パンフレットとかでそれが紹介されているのを見たんじゃないか?」
ロボットにも様々なタイプが存在する。
ピィのような愛玩ロボットタイプもいれば、あの竜のように、見た目は怪物のようなタイプのものまで。それだけ色々なニーズがあるということだろう。
ハルキのクラスメイトの父親にも、ロボットマニアがいて、『ベヒモス』なんていう伝説上の怪物を模したロボットを持っている者がいる。企業に特注させて造らせたということだった。
人それぞれ、変わった趣味があるものだ。
特にこれといった趣味のないハルキにしてみれば、そんなものを持っていてなんになるのか、というような思いしかないが。
「そういうことじゃないと思うんだけどな……」
ジークが、難しい顔で首を傾げる。
そんな会話をしながら着替えを済ませ、脱衣所を出たところで、突如、
「きゃああああああ!」
リビングの方から、ノアの悲鳴が届いてきた。
*
ノアの悲鳴を聞きつけた二人が、慌ててリビングへと駆けつけると、そこには、信じられない光景が広がっていた。
ぱちぱちと薪を爆ぜさせながら火を灯す暖炉の前でへたりこんでいるノアの前で、あの竜のロボットが、畳んでいた翼を大きく広げていたのだ。
赤々と輝きを放つ鋭い双眸を向けられたノアは、射すくめられたように身を震わせながら、口をあわあわとさせている。
すばやく危険を察したハルキは、
「ノア! 離れろ!」
叫びながら、傍の棚の上に置かれていた花瓶を、その竜に向かって投げつけた。
宙を滑る花瓶は、翼を広げる竜の眉間に命中して割れ、床に敷かれた絨毯の上に破片となって散らばった。
「グゥルァアアアアゥオオオオオオ!」
竜のロボットが、激高したように、洋館を震わさんばかりの咆哮を上げ、花瓶を投げつけたハルキにむき直る。
そのまま、ずしり、ずしりと床を鳴らしながら、ハルキの元へとにじり寄る。
ハルキは、ノアを救うために必至に牽制したものの、恐怖で身体が竦んで動かない。
ハルキの眼前に迫った竜のロボットが、そのかぎ爪を、大きく振り上げた。
「ハルキ!」
ジークが叫びながら、ハルキの前に出て立ちはだかる。
そのジークの頭上に、振り上げられたかぎ爪が振り下ろされそうになった時--。
チュイィィン--。
小さな音が鳴るとともに、白い光の筋が走り、今まさにジークに襲いかかろうとしていたロボットの竜の眉間を貫いた。
「グァガァ……」
ロボットの竜が、呻くような声を出したかと思うと、ぐらりとその巨躯を傾け、ずしんと音を立てながら、その場に倒れこむ。
ハルキ、ノア、ジークが、その白い光が放たれた方へと目をやる。
そこには、レーザー・ライフルを構えるヨハンが立っていた。
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