古ぼけた洋館

 古ぼけた石造りの洋館だった。

 二階建ての玄関口の重厚な扉には、今時珍しく、インターフォンはついていなかった。

その前に立ったジークが、インターフォンを鳴らしてしばらく待つと、重厚な扉が開き、

「……誰だ?」


 顔を出したのは、年の頃五十前後程の男性だった。ぼさぼさの髭を生やした、まるで熊のような容貌。眉間に深く縦皺を刻んだいかつい顔をしている。


「連れの子供が風邪を引いて熱を出してしまったみたいで」

 ジークが事情を説明した。

「すみませんが、薬をもらえないでしょうか? できれば、少し休ませてもらえるとありがたいんですけど」


 髭を生やした男性は、しばらく無言のままでいたが、

「……入れ」

 と不機嫌そうながらも、ハルキ達を中へと招き入れてくれた。


     *


 ハルキとノア、ジークの三人は、洋館一階にあるリビングで、カウチソファに座ってホット珈琲を頂戴しながら、雨に濡れて冷えていた身体を温めさせてもらっていた。

 サミーは今、薬を飲んで、二階の部屋でベッドに横になって眠っている。

 おかげで熱はだいぶ引いて、安静にしておけば大丈夫そうだった。

 そうしてくれた男性の名はヨハンといい、この古ぼけた洋館に一人で住んでいるという。


「立派な竜の置物ですね。かなり高価な代物なんじゃないですか?」

 ジークが、リビングの中央に鎮座する、鈍色に光る巨大な竜を見やりながら。


 両翼を畳んでいながらにして、熊などを優に上回る程の巨躯。

 射竦めるように鋭い双眸。

 長く突き出た顎に生やした、長く鋭利な牙。

 全身を覆う、頑強さをうかがわせる鱗。

 金属製であるということをのぞけば、まるで、空想上の竜がそのまま現れたかのような風貌。


「置物じゃない。ロボットだ」

 三人と向き合ってシングルソファに座るヨハンが答えた。


「ロボットでしたか。これは失礼。これ程精巧な竜のロボットなんて見たことがなかったもので」


「動いたりするんですか?」

 興味深げにノアが尋ねると、

「今は壊れていて動かん。だから直しているところだ」

「工作が得意なんですか?」

「昔、エンジニアをしていた」


「エンジニアですか、なるほど」

 ジークは頷くと、

「そこの棚の上の写真で一緒に映っているのは、息子さんですか?」

 とその写真を見やりながら。


「ああ、そうだ」

「ツナギを着た姿で、手にスパナを持って写っているようですけど、彼もエンジニアなんですか?」


 ヨハンは、目を伏せながら、

「……息子は、死んだよ。あの『大いなる災禍ファータル・カタストロフィ』でな」


「……すいません、聞かれたくないことを尋ねてしまって」

 ジークが決まり悪そうにすると、

「別に、かまわん。それよりも、風呂を沸かしたから、入れ。お嬢ちゃんから先でいいだろ」

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