突然の驟雨
湖畔に辿り着いた四人は、そこでまずは昼食を摂ることにし、地面にシートを広げて座った。
「おいしいね、このサンドイッチ」
サミーが二つ目を頬ばりながら。
「でしょ? だったら、どんどん食べてね。まだまだたくさんあるから」
ノアが嬉しそうにサミーに勧める。
「アレクシオさんが焼いたクッキーも、最高だな」
とジークがそのクッキーをポリポリ囓りながら。
「あ、ジーク! それ、おやつにとっておくつもりだったのに!」
ノアがそれを見て目くじらを立てる。
「ジーク大食らい! ジーク卑しん坊!」
サミーの肩にのるピィが、甲高い声合成音声で蔑む。
「あっ、こいつ、さっき褒めてやったのに!」
とジークがそのピィの嘴を、指先でぴんと弾く。
「暴力反対! 暴力反対!」
ピィは繰り返しながら、翼を羽ばたかせて遠くに離れて行った。
ハルキは、「はは」と笑いながら、
「俺の分もとっておいてくれよ」
うららかな陽射しと、時折湖畔を吹き抜ける風が心地よかった。
*
昼食を摂った後は、皆で
午後四時をすぎたところで、ピクニックの締め括りとしてボートに乗ることにし、ハルキとノア、ジークとサミーのペアに分かれて、それぞれボートを漕いで沖に出た。
「あっ、お魚さんが飛び跳ねたよ!」
ボートに乗るノアが、楽しげに、波紋を浮かべる湖面を指さしながら。
「おい、あまり揺らさないでくれよ、転覆したらどうするんだ」
オールを漕ぐハルキは、気が気ではない。
「サミー、ジーク、おーい!」
ノアはハルキが言うのを無視して、離れてボートに乗る二人に呼びかける。
「はしゃぎすぎだろ……」
ハルキは、どちらかというとインドア派だった。
だから、こういう自然の中にやって来たところで、それ程気分が高揚するというわけでもない。
ノアもアウトドアな趣味があるわけではないが、普段ファッションを楽しんだり料理を作ったりと普通の女の子なので、あまりこういうところで遊ぶ経験がないため、楽しくてしかたがないのだろう。
まあ、喜んでるなら、別にいいか……。
とハルキがもくもくとオールを漕いでいると、
「あ、雨……」
ノアが掌を上に向けて、空を仰いだ。
いつしか空には、暗灰色の雨雲が忍び寄ってきていた。
その雨は、すぐに叩きつけるような土砂降りとなった。
「ノア、岸に戻るぞ」
「そうだね、そうしたほうがよさそう」
ハルキは、必至にオールを漕いで、岸辺に向かった。
*
「山の天気は変わりやすいからな」
ハンドルを握るジークが言った。
豪雨に見舞われたことで、ピクニックはそこでお開きとなり、四人は帰路に就いているところだ。
その突然降り出した雨は、一度にどっと降り注いだ後、四人が車に戻った途端に、ぱたりと止んでしまった。どうやら、一時だけ通りすぎた驟雨だったらしい。
「機械制御されてるんだろ? なにもそこまで忠実に再現する必要ないってのにな」
と後部座席に座るハルキが、不満を呟く。
「もう少し、遊びたかったなあ……」
右隣に座るノアが、名残惜しそうに。
「今日はもう十分遊んだだろ? また来ればいいさ」
ハルキは言うと、
「なあ、サミー?」
ノアの左隣に座るサミーに声をかけるも、サミーはなにも答えない。どうしたのか、瞼を閉じてぐったりとシートにもたれかかっている。
「サミー、どうしたの? ……もしかして--」
様子がおかしいことを察したノアが、サミーの額に掌を添える。
「すごい熱!」
ノアは慌てながら、「サミー、大丈夫!」
「熱を出してるのか?」
とジークが心配そうな顔を横に向けながら。
「そうみたい。早く病院につれていかないと」
「でも、道に迷ってるんだぞ?」
ハルキが困った顔でそう言った時、フロントガラス越しにのぞく道の先に、周りを背の高い木々に囲まれながら、一軒の民家が立っているのが見えた。古ぼけた洋館のようだ。
「民家があるみたいだ。ここから街の病院まではけっこう距離がある。とりあえず、そこで薬をもらって休ませてもらおう」
ジークは言うと、その洋館へと車を走らせた。
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