世界の再生


 ノアと恋愛ものの映画を観た後、午後十時頃になって帰宅した。

 恋愛ものの映画は、ノアが言うには若者の間で話題沸騰中だということだったが、ハルキにはやはり退屈で、途中から眠ってしまっていた。

 なので、それを観た後に、ノアが色々と内容について話してきたのだが、曖昧な相槌を返すしかできなかった。

 それでもノアは楽しんでくれていたみたいだから、それでいいが。



「ただいま」

 と玄関の扉を開ける。

 だが、返事が返ってくるわけでもない。

 上がり框に腰掛けながら靴を脱ぎ、二階へと上がり鞄を置くと、シャワーを浴びるために着替えを持って、再び一階へと下りて風呂場へと向かった。


 一緒に暮らしている、ハルキの世話をしている叔父は、今日は残業だから遅くなると事前に連絡を受けていた。

 中堅企業に勤める真面目なサラリーマン。ノアの母親程ではないが、毎日仕事に追われ、こうして帰りが遅くなることも多い。

 その叔父は、『大いなる災禍ファータル・カタストロフィ』で家族を失ったハルキを、快く引きとってくれた。そんな優しさには感謝しているし、なにか報いることがしたいと常々思ってはいるが、学業においても候補生カデッツとしてもよい結果が残せないため、中々それで喜ばせるということができていない。


     *


 シャワーを浴びた後、二階の自室に上がると、ベッドに腰を据えながら、

「テレビ、オン。チャンネル21」

 その声を認識して、背の低い棚の上に置かれている投影機から、その上の空間に、矩形の三次元立体映像ホロ・プロジェクションモニターが結ばれる。


 映し出されたのは、報道番組だった。

 見慣れたイタリア人のベテランMCが、ゲストとして呼ばれた識者に色々と尋ねている。


「ケヴィン教授は、、について、どう思われますか?」

 ベテランMCが、センスよくスーツを着こなす初老の識者に尋ねた。


「人類は、大地に足を立たせることで、進化を遂げ、繁栄を築きました」

 ケヴィンと呼ばれた識者が、両腕を前で組みながらしかつめらしく答える。


「大地があってこその文明だと」

「そうです。その父なる大地を蹂躙されたままにしておいては、真の再生は得られません」

「その大地をとり戻すための作戦が、最高評議会ハイ・カウンシルで検討されているというお話については?」

「そのようですね。私は、それに全面的に賛成を表明します。世界の再生は、その時をもって――」


「テレビ、オフ」

 ハルキはそこで、テレビの電源をオフにした。

 空間に結ばれていた矩形の三次元立体映像ホロ・プロジェクションモニターが、ぷつりと消失する。


 ハルキはそのまま、両手を頭の後ろに回してベッドに横たわりながら、

「世界の再生、か……」


 いまさら世界の再生なんて果たしたところで、いったいなんになるというのか。

 それで失われたものが戻って来るわけでもない。

 大人達は、どうせ、自分達の欲や利権にかられて、それを推し進めようとしているだけだ。

 候補生カデッツである自分達は、それにつき合わされているだけ。


 とは言っても、そのために戦争に向かわされるなんてことはなにがあってもないだろう。


 自分は、『落ち零れのDディー・フォーレン・スピル』でしかないんだから――。



 こんなことを考えていても、なにも楽しいことはない。


 ハルキは、眠りに就くまでの間、今度の土曜にノアや他の友人達と予定しているピクニックのことを考えることにした。


 現実を見つめてみたところで、自分の今が変わるわけでもない。

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