アリスの不思議な夢
私たちの家族はパパと私たちの三人でたくさんの木々に囲まれた環境で暮らしていました。
ママは、私たちを生んでからすぐに亡くなってしまったそうです。
勿論、どんな人だったか気になります、会いたかったという気持ちもありました。
でも、別に寂しくはないです、だって私たちにはパパがいるし私たちは仲良しの双子だから全然寂しくないのです。
パパは、日本の人たちや文化歴史が大好きらしくその影響で私たちも日本の人たちが大好きで旅行でも度々行くことがあります。
そんなパパは寝る前に少しだけ日本語を教えてくれました。
これが私たちの日課であり、なんともない日常でした。
でも……そんな日常に違和感を覚え始めたのです。
それはいつもの朝の事、姉の私はパパに聞いてみました。
いつもよりお家が大きく感じ扉がとても小さく人が入れるような大きさに見えなかったのです。パパは不思議そうに私を見て目の前で小さくなった扉を平気で私に開けて見せたのです。その時パパの手が突然小さくなったように見えました。
驚いた私は妹に相談してみましたでも片割れの妹も建物が小さく見え自身の体が小さくなったり大きくなったりすると言い出したのです。
私たちは最初はとても戸惑いました。
でも、いつしか自分たちにしか見えないこの世界を楽しいと思うようになったのです、
きっと他の人には全く理解不能な光景に見えると思います。
「最近あの子達変じゃない……」
「怖いわ、誰もいないのに誰とお話をしているの」
「あんな所に登ったら危険よ」
一体何を見てみるのかしら
そんな中でも私たちは気にせず誰が何を言おうとお構い無しに自分たちにしか見えないこの不思議な世界を満喫していました。
だって私たちは何も悪くない。
この不思議な世界を……誰にもわからないこの世界を見て楽しんでいるだけなんだから。
でも、ある夜……
今日もパパはいつものように私たちに日本語を教えてくれるはずでした。
でも、今日は日本語ではなくとても大事な話があると言い、ベットにうつ伏せになっていた私たちを仰向けに寝かせ直し、真剣な顔で話し出しました。それは、私たちがある病気にかかっているかもしれないというお話でした。
「病気……何それ」
「なんの病気、私たち何処か悪いの」
妹が不安そうな顔でパパの顔を見つめて言うとパパは苦笑いをしながら私たちの頭を撫でそれを確かめに病院に行こうと告げたのです。
そうして、何日間過ぎてから私たちは病院に行き中へ入ってから案外早くお医者さんに呼ばれ、そこで質問を交えながら、お話をしました。
全てに正直に答えるとお医者さんはとても不思議そうに私たちを見つめパパとお話をしたいと言って、私たちは一度廊下に出されました。
戻ってきたときには、パパはとても怖い顔をして慌てて私たちには近づこうとしてきましたがそこにいたナースさんに止められました。
お話することはできずにお医者さんに肩を掴まれ明日から入院する事になったと告げられた私たちはそれを拒みました。
どうして、なんで
私たちが入院をしなちゃいけないの。
全然わからないよ
パパとお話することもダメなの。
なんで……なんで……
なんでこんな一方的に言われなきゃいけないの。
子供の私たちには勿論拒否権などなく、パパともお話をするとこはできずに、強制的に入院をさせられました。
それから、毎日辛かった……
毎日が地獄だと思った……
私たちは目を塞がれ、見ることも拒むことも許されずベットに縛り付けられ一切の自由を奪われた……
毎日私たちが叫び喚くものだから、困った医者たちは私たちの口さえも塞ぎました。
助けて……ここから出して
私たちの悲痛な叫び声は誰に届くことはありませんでした。
何も通じない……何も見えない……
私たちの日常は、「ちょっと不思議な物が見えた」
それだけの事で、簡単に全てを奪われ何もかもが崩れ去り、まるで真っ暗なウサギの穴に落ちたようだ。
そう、物語のあのアリスのように突然暗闇へと落ちて行った感覚でした、ただ少し違うのは変なものや人たちに出会うことはなく、ひたすら落ちていきこのままお互いの姿も声もわからずに過ごすという事でしょう。
私たちは、もうこのまま大人になり二度とパパとも会えず寂しいまま真っ暗な穴に閉じ込められるのだと思い込んでいました。
そんな事が半年過ぎた時でした。
ある日、見知らぬ声が聞こえたのです。
私たちは、ベットに縛り付けられ身動きはとれないが身をできるだけ声のする方へと動かしました。
カーテンを開ける音が聞こえたぶん私たちのベットのだと思います、こんな私たちの姿を見ても驚いた感じの声はせず冷静に医者とお話をしている状態がわかりました。俯きまたただの会話かと思っていた時、目隠しを外されしばらく見ていなかった自分の手や目の前にいる妹らや物を久しぶり見えるようになった視界に私たちは目が合い互いの顔を確認するような事をしてから、外してくれた人の方へと向きました、その人は真っ黒な服に手や顔を包帯で巻いた姿で私たちの器具を外してくれていました、なんとなく聞いて話し方的にも雰囲気的にも私たちの国ではなく日本人であることがわかりました。
まだ安定しない視界のせいかその人は私たちよりも大きくなったり体の一部が小さくしたりを繰り返していました。
まだあの私たちにしか見えない不思議な現象は続いていたようです、全ての器具を外してから、彼は顔だけを小さくして帽子を大きくした姿に安定し私たちに喋り掛けました、その人の日本にある精神病棟に来ればこんな大袈裟な拘束はしないと、今はパパに会えることはできないがここよりもずっといいはずだと教えてくれました。
もし治れば、パパが迎えに来る。
一方的に強制しているわけではなかった。
彼は、その可能性を私たちに教えてくれた。
パパに会いたいけど、会えない……
それが一番辛いことでした。
でも、こんな所で真っ黒な穴に閉じ込められるぐらいなら、辛くてもこの人の言った通りその病棟にいる方がずっと良いとこの時の私たちはそう思っていました。
医者が隣で彼に対してとても怒っていましたが私たちはそんな医者の言うことなんか無視して、その人にすがり付くように自分たちからもお願いをしました。
こんな暗い場所にいるなんて嫌だ。
居たって治る様子は全くないし
こんなの地獄でしかない。
こんな世界に閉じ込められるぐらいなら……
なにも知らないその人の元へ行く
もしかしたら、
またパパと暮らせる日がくるかもしれない……
それかもういっそのこと治らなくたっていい
二度と会えなくなってしまっても……
こんな場所にいるくらいなら……
一生このまま自分たちにしか見えないこの不思議な世界にいた方がマシだと涙を流しながら叫びました。
すると彼は、私たちの手を引き来てくれるねと言って、真っ暗な病院という穴から連れ出してくれました。
それから、日本に来てからさらに不思議な物をよく見るようになりました。
言っていた病棟なのですが私たちから見れば建物が全てゼリーのように歪んでいて、触ったら崩れてしまう感じでした。木も真っ赤のだったり黄色だったり、門をくぐり抜けた後にある花壇には、たくさんの変わった花が咲き乱れていました。
それを後にし私たちの部屋へと案内され私たちは片方の手首にだけ鎖のついた黒い枷を付けられました。
私たちに付ける拘束器具はこれだけだと言われ、あの病院であった事からは、信じられないくらいホントになにもなかったのです。ナースさんがいればお庭だって出れる、何処にでも行ける。
あそこには自由がなかったのに、ここには自由がある。
パパには会えないけど、その分自由が手に入りました。
仕方ない、治すためだ。
私たちは治すためにここに来た、もうあの実験のように真っ暗な世界に閉じ込められることはない。
私たちには、自分たちの顔を見合い笑いました、ここなら絶対に治る、治ってパパがいつか迎えに来てくれるはずだ。
そう思い私たちは、今日もまた自分たちにしか見えない不思議な世界を見ています。
いつか治りまたあのなんにもない
幸せな日常へ戻れると、
三人で暮らせる日々に帰れると願い続け
今日も明日も明後日もずっとずっと…………
いつかこの不思議な世界から目を覚ますのを夢見て……
私たちは、不思議な夢を見続ける。
いつかの日を願いながら。
覚めるかわからないこの夢を……ずっと……
~END~
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